オデュッセイア (Odysseia) (6) イリアス & オデュッセイア
セイレン (Siren)
オデュッセウスの船は、セイレンの住む島にさしかかった。
セイレンは、二人が歌い、もう一人は笛を吹いて船乗りを惑わす海の魔女である。
彼女たちは、この世のものとは思えないほどの美しい声の持ち主だった。
彼女たちが、船に近づいて歌うと、聞く人間の魂をもとろけさせる様な歌声につられた船乗りたちは、我を忘れて島に上陸して、その歌声に聞きほれたまま、故郷の妻子も忘れて飢え死にしてしまうのである。
セイレンの島には、そんな船乗り達の白骨がごろごろしていると言われていた。
船がセイレンの島に近づくと、風はぴたりと止んでしまった。
オデュッセウスは、キルケに忠告されていたので、乗組員全員の耳をロウでせんをし、セイレンの歌が聞こえないようにした。
しかし、好奇心おう盛なオデュッセウスだけは、耳にせんをせずに、その代わりに部下に命じて自分の身体を帆柱に堅く縛り付けさせた。
耳をロウで塞いだ乗組員達が懸命に船を漕ぐ間、オデュッセウスだけはセイレンたちの妖しい歌声を思う存分楽しめた。
しかし同時に、彼はセイレンの歌声に魅せられて、狂ったように暴れもがいた。
「おい、なわを解いてくれ!」
オデュッセウスは、大声をあげたが、耳にせんをした仲間には、セイレンの歌も、オデュッセウスのたのみも聞こえず、いっしんに船を漕ぐだけだった。
セイレンの島からずっとはなれたところへきて、ようやく仲間たちは耳せんをとり、オデュッセウスのなわも解かれた。
こうして、セイレンの難所はのりきることができた。