イリアス(Iliad)(6)  イリアス & オデュッセイア
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ヘレネ(Helene)


パリスがメネラオスに戦いを挑んでいると知ったヘレネは、プリアモス王とその顧問たちがすわっているスカイア門のそばの望楼に向かった。

この望楼からは平原で行われていることがすべて見通せるのだった。

「ヘレネだ」

顧問達は顔を見合わせて言った。

「トロイとギリシアがあの女をめぐって戦いを交えるのも不思議はない。あの女はまるで永遠の女神のように美しい。
しかし、我々はあの女にトロイから出て行ってもらいたい。
あの女のせいで老いも若きもどれほど悲しい目にあわされたことか・・・」
  


一方、メネラオスとパリスの一騎打ちが再会され、両軍は戦うのをやめてこの一騎打ちの行方を固唾を飲んで見守った。

まず手始めに、パリスの方が自分の槍をメネラオスに向かって投げたが、槍はあっけなくメネラオスの盾に跳ね返された。
今度は逆にメネラオスが槍を放り投げ、パリスの盾を貫いた。

しかしパリスはすんでのところで身をかわしていたので、なんとか傷を負わずに済んだ。
これを見たメネラオスは剣を抜いて接近戦を挑み、パリスもこれに応じた。

しかし、ここでもやはりメネラオスの剣技の方が一枚上手で、彼は隙をついてパリスの頭めがけて思い切り剣を叩きつけた。

剣は兜に当たって砕けてしまったが、それでもメネラオスは戦いを止めない。
彼は武器を捨てて素手でパリスに挑みかかると、なんなく彼を押さえつけて体の自由を奪ってしまった。

こうなってしまっては、一騎打ちの勝敗は誰の目にも明らかだった。
メネラオスはパリスを捕虜とすべく、彼の兜を引っつかんで自分の陣地へ引っ張っていこうとした。

しかし、パリスの背後には美の女神アフロディテがついていた。
女神はパリスを助けようと、パリスの兜の締め紐を切断してしまった。
おかげでパリスは自由の身となり、一目散に自分の陣地へと逃げ帰った。

こうしてメネラオスとパリスの一騎打ちはギリシアのメネラオス優勢のまま終った。

二人の一騎打ちをスカイア門の望楼から見守っていたヘレネは、物思いにしずんでいた。

「私は何故あの優しく寛容で誠実な夫を捨てて出てきてしまったのだろう。
肝が据わってほんとうに立派な人間だというのに・・・」

ヘレネは久しぶりに夫を見て後悔の思いに捕らわれながら王宮へ戻っていった。