イリアス(Iliad)(2)  イリアス & オデュッセイア
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アガメムノン (Agamemnon)

総指揮官アガメムノンのもとにギリシア各国の軍隊が集結した。

その中には当時最も優れた武将といわれたアキレウス、知恵者といわれたオデュッセウス、ピュロスの王である老獪なネストル、アルゴス王であるディオメデスなど、当時のギリシア世界の名だたる英雄が名を連ねていた。

前途洋洋と集結したギリシア軍であったが、不幸なことに出航前からトラブルがついて回った。

ギリシア軍はアウリスの浜辺から船を出そうとしたのだが、ひどい嵐に遭ってどうにも出航することが出来なくなってしまったのである。
しかも、この嵐は何ヶ月となく続いた。

どうもおかしいと思ったギリシア軍の武将たちは、その原因を確かめるべく、神官のカルカスを呼んで神託をうかがわせた。
カルカスの神託によると、ギリシア軍が嵐で出航できないでいるのは、アガメムノンが女神アルテミスの機嫌を損ねてしまったからだという。

彼は以前アルテミスの使いである鹿を狩りで射殺してしまっていたのである。
そしてその怒りを解くにはアガメムノンの娘イピゲネイアを生贄として女神に捧げなければならないというものだった。

アガメムノンははたと困惑した。イピゲネイアはアガメムノンが最もかわいがっていた娘だったし、アガメムノンの妻クリュタイムネストラは非常に気が強い女だったので、自分のかわいい娘を手放すわけがなかったからである。

どうすればいいかわからなくなったアガメムノンは知恵者のオデュッセウスに助言を求めた。
オデュッセウスは、ギリシア一の英雄アキレウスと結婚させるという名目でイピゲネイアを呼び出したらどうかと助言した。

アガメムノンは苦悩の挙句、娘を犠牲にする決断をして妻クリュタイムネストラが留守を守る城へ手紙を届けた。

イピゲネイアと母親のクリュタイムネストラは手紙を読むと大いに喜び、美しい晴れ着一式を持って迎えの船に乗り込んだ。
しかしイピゲネイアを待っていたのは、兵団のためにわが身を犠牲にしろという恐ろしい父の言葉だった。

悲嘆に暮れ娘の助命を願い出るクリュタイムネストラに対し、イピゲネイアは王女の務めとしてわが身を捨て国のために生贄となることを承諾する。
気高い王女は婚礼の衣装を身に着けたまま祭壇で命を落とした。

こうしてギリシア連合軍はイピゲネイアの犠牲のもと、ようやく出航できたのである。

しかしどういうわけか、この経緯がアキレウスの耳に入ってしまったのである。
自分の名前を口実に使われたアキレウスは激怒し、以後アガメムノンを恨みに思うようになった。

ギリシア軍の陣内では出だしから険悪ムードが高まってしまったのである。


   
             



      Menelaus, Paris, Diomedes, Odysseus, Nestor, Achilles
       and Agamemnon by Nikolai Ivanovich Utkin