鳩子の海 1974年(昭和49年) ドラマ傑作選
防空頭巾にもんぺ姿の記憶をなくした少女が線路際にたたずんでいる。
そこに走ってきた列車が急停止する。
あたり一面に戦闘機からの「バリバリ」という音が響き渡るなか、逃げ惑う乗客。
呆然とする少女を一人の兵隊がとっさにかばう。
戦闘機の去ったあとに残るのは兵隊と少女だけだった。
兵隊は、矢部天兵(夏八木勲)という脱走兵であった。
天兵と少女は、しばらく一緒に歩いて行った。
やがて、瀬戸内海のある島を見つけた天兵は、少女に言う。
「自分はもっと遠くへ逃げなければならない。ここからは一人で行け。
この島はお前の島だ、安心して行くがいい」
漁師の船に乗せてもらった少女は、島に着くと歩いて見知らぬ家に入る。
そして「この島は私の島なんだ、だから安心して行けばいい」と言われたという。
その家で船宿を営む時子(小林千登勢)は、少女を引き取り、平和と希望の
象徴である「鳩」から鳩子と名付ける。
大人になっても、鳩子(藤田美保子)は防空頭巾ともんぺをずっと大切にしていた。
かつて米軍の爆撃から鳩子を救った天兵は、今や商社マンとして海外を飛び回っていた。
やがて天兵との再会をきっかけに、鳩子の人生は大きく動き出すのだった。
悲惨な戦争体験から記憶喪失になり、瀬戸内海の港町で育てられた鳩子が荒波に
もまれながらたくましく歩んでいく人生賛歌。
幼女時代を演じた斉藤こず恵に人気が集中して、彼女の出番がなくなると、
「なぜ出演させないのか」「もう見る気がしない」などといった投書が殺到。
そのために成長後を演じた藤田美保子の印象が薄くなってしまった。
本作は、平均視聴率47.2%、最高視聴率53.3%という驚異的な数字を記録、
テーマ音楽ともどもお茶の間を席けんした。
舞台となった山口県の上関町長島は、一躍脚光をあび、全国津々浦々にまで知れ渡った。
ブームにつられて現地に行くと、ドラマにちなんだ土産物や観光名所が多数登場している。
「鳩子まんじゅう」「鳩子てんぷら」をはじめ、1969年に開通した「上関大橋」も
観光の目玉となっている。
2011年には、日帰り温泉施設「鳩子の湯」が完成。瀬戸内海の「鳩子の海」を一望できる
露天風呂がウリで、潮風を感じながら贅沢な湯浴みを満喫できるという。
(制作)NHK(脚本)林秀彦、中井多津夫
(配役)宮前鳩子(藤田美保子、斉藤こず恵)矢部天兵(夏八木勲)宮前時子(小林千登勢)
軍吉(吉田義夫)波江(滝奈保栄)優子(伊藤めぐみ)冬人(堀内正美)榊原清久(岡田裕介)