オデュッセイア (Odysseia)(14) イリアス & オデュッセイア
復讐
そのころ広間では、豚飼いがオデュッセウスに弓を渡そうとしていた。
しかし求婚者達はまだ、文句を言っていた。
テレマコスは、早く弓を渡すように、大声を張り上げた。
オデュッセウスは、つやつやと黒光りする大弓を愛しげに掌でさすった。
そして彼は左手で弓を抱えると、右手で易々と弦をかけた。
一本の矢をつがえて彼は打ち放った。矢は直線上に並んだ十二の斧の穴を見事に射抜いた。
呆気にとられた求婚者達の前で、彼はボロの衣をかなぐり捨てて、宣言した。
「さあ、くだらん競技は終わりだ。次はおまえ達が的だ」
そう言いながら、彼は矢をつがえ、求婚者達めがけて矢を放った。
矢は彼らの一人の喉笛を貫いた。
騒然となった広間で、オデュッセウスは名乗りをあげた。
「犬どもが! 私がトロイから帰ろうなどと思いもしなかったろう。
だからこそ貴様らは、数限りない無法と無礼を続けてきたのだろう。
しかし、貴様らには今や破滅があるだけだ!」
凄まじい戦いが始まった。
武装したテレマコスと豚飼いエウマイオスもこれに加わった。
求婚者達の中には命乞いをするものもいたが、オデュッセウスは容赦しなかった。
彼らは一人また一人と倒され、ついに皆殺しになってしまった。広間は血の海になった。
騒ぎが治まると、オデュッセウスはテレマコスに命じて、死体の始末と広間の血の汚れを洗い清めさせた。