オデュッセイア (Odysseia) (9) イリアス & オデュッセイア
王女ナウシカ (その1) (Nausicaa)
オデュッセウスは、カリュプソに教えられた通りのコースを選び、夜も眠らずに巧みにいかだを操って進んだ。
しかし、遠くに、故郷に近いファイアケス島が見えてきたとき、またもやじゃまが入った。
海神ポセイドンが、オデュッセウスのいかだを見つけたのである。
ポセイドンは黒雲を呼び寄せ、愛用の三叉の矛(ほこ)を海中に突き立てると、激しくかき回した。
たちまち大嵐がおこり、いかだは木の葉のようにほんろうされた。オデュッセウスは海中に投げ出され、いかだはばらばらになった。
その残がいにしがみついて、彼は暗い波間を漂った。
二日二晩漂い続けて、ようやくファイアケス島に漂着した彼は、河口から陸に上がった。
それから水辺に近い森に入り、落ち葉に埋もれて深い眠りについた。
ファイアケス島の王アルキノオスの娘、ナウシカは、昨夜夢の中に現れたアテナのお告げで、まだ着たことのない婚礼衣装を洗濯しに来ていた。
洗濯を終えると、毬遊びに興じていたが、ナウシカの投げた毬が河に落ちると、侍女達が一斉に叫び声をあげた。
その声にオデュッセウスは深い眠りから覚めた。
彼はしばらくためらってから、助けを求めるために娘達の前に進み出た。
汚れ疲れきった全裸の男を見て、娘達はクモの子を散らすように逃げ出した。一人ナウシカだけは毅然と彼を見つめていた。
オデュッセウスはナウシカの清楚な美しさと勇気に感動しながら丁重に言った。
「どちらの王女様かはしりませんが、どうか私を助けていただきたい。私は決して怪しいものではありません。
不運にも船が難破し、命からがらこの島に辿り着きました。どうか私に着るものを恵んで下さい。そしてこの国の国王の元へお連れ下さい」
ナウシカは、言葉の礼儀正しさと優雅な響きを聞くと、すぐに承知し侍女達を呼び戻した。
ナウシカは、宮殿を訪れて父王に保護を求める方法を彼に教えると、都の入口で別れた。