オデュッセイア (Odysseia) (8) イリアス & オデュッセイア
妖精カリュプソ (Kalypso)
オデュッセウスは、十日目の夜に、オギュギアという島に流れ着いた。
オギュギアの島には、美しいカリュプソと言う妖精がひっそりと暮らしていた。
カリュプソは浜辺に打ち上げられたオデュッセウスを見ると、一目惚れし、彼女の家に連れ帰った。
彼女のオデュッセウスに注ぐ愛情は、こまやかで何をするにも心がこもっていた。
そんな生活が七年も続いたが、オデュッセウスの心は一日も晴れることはなかった。遠い故郷に帰ることだけが彼の心を占めていた。
このころになって、オリンポスの神々のあいだで、オデュッセウスのことが話題になり、もうオデュッセウスを故郷へ帰してはどうかという意見がでた。
ゼウスは、ヘルメスを使者として、オデュッセウスを帰国させるように、カリュプソに命じた。
カリュプソは身を震わせて小さな叫びを洩らした。
「あぁ、なんて神々は、いつも嫉妬深いのでしょう。私達妖精が人間と愛しあうと、神々はいつも気に入らないのです。
私はオデュッセウス様を心から慕い愛しているのに、あの方を不老不死にしてあげようとさえ思っているのに。
でも、ゼウス様のお言葉に背くことはできないのですね」
ヘルメスが立ち去るとカリュプソは浜辺に下りていった。
オデュッセウスは海の彼方を見つめ、涙を流しながら立ち尽くしていた。
「かわいそうなオデュッセウス様。もう悲しむ必要はありません。あなたをお国へ帰してあげましょう」
思慮深いオデュッセウスは始めこの言葉を信じなかったが、カリュプソは本当だと誓った。
翌朝、カリュプソは、じょうぶないかだをつくり、たくさんの食料を用意した。
オデュッセウスは、いかだのあやつり方をカリュプソから教えてもらい、やっと故郷へ向かって旅立つことができた。