オデュッセイア (Odysseia)  (7)   イリアス & オデュッセイア
直線上に配置

ヘリオスの家畜

順調に航海は進んでいた。その彼らの前に美しい島影が見えてきた。

それは太陽神ヘリオスの家畜が放牧されているトリナキエ島だった。

キルケに、その島だけはどんなことがあっても、上陸せずに避けて通るように言われていた。
ヘリオスの家畜を、人間はけっして殺してはならないとされていたからである。

しかし、久しぶりの陸地に喜ぶ乗組員達を見て、オデュッセウスはしかたなく船を島につけた。
一行はきれいな泉に近い浜辺に、船を繋いで上陸すると、すぐに温かい夕食を作って、心行くまで飲み食いし、静かな大地の上で深い眠りについた。

夜更けに嵐になった。朝になっても風は収まらず、その後何日も続いた。
キルケがくれた食料も底を尽き始めていた。

オデュッセウスは全員を集めて、ヘリオスの家畜には絶対に手をつけないように念を押した。
しかし、乗組員達は皆、空腹で神経が苛立っており、オデュッセウスの命令に従う気にはとてもなれなかった。

オデュッセウスは、島の奥に入り、嵐を収めて欲しいと神々に祈るうちに寝入ってしまった。
眠りから覚めたオデュッセウスが戻ってみると、仲間達はヘリオスの牛を殺して肉を貪っている最中だった。オデュッセウスは絶望の叫びをあげた。

太陽神ヘリオスは、この悪行を知り、すぐにゼウスに訴えた。ゼウスは復讐を約束した。
七日目、ようやく嵐も収まったので彼らは出帆する事ができた。

しかし島を離れるとすぐに暗雲が空一面を覆った。激しい西風が吹き荒れ、帆柱は二つに裂けた。
船は微塵に砕け散り、皆海に投げ出された。彼らは荒れ狂う大波に飲み込まれ、一人また一人と海中へ飲み込まれていった。

オデュッセウスは、砕けた船の破片の上に乗って漂った。漂流は、九日九晩つづいた。