オデュッセイア (Odysseia)(3)
イリアス & オデュッセイア
風の神アイオロス
(Aiolos)
オデュッセウスの船団が次に着いたのは、風の神アイオロスの島だった。
アイオロスは、オデュッセウス一行を歓迎し、一カ月間も屋敷に泊めてもてなしてくれた。
出帆の日が近づくとアイオロスは雄牛の皮で丈夫な袋を作り、その中にすべての逆風を封じ込めて、オデュッセウスに手渡しながら言った。
「この袋は絶対に開けてはならない。あなたの仲間が中を見たがるかもしれないが、一切聞き入れてはなりません。
一度開けると大変なことになりますよ」 アイオロスは念を押していった。
九日間、順風に乗って船団は穏やかな海を航海した。
十日目に夢にまで見た故郷イタケが眼前に現れ迫ってきた。
この九日間オデュッセウスは夜も眠らずに、アイオロスの革袋を見張り舵を取り続けていた。
疲労と故郷が間近いという気の緩みから彼はつい、うとうとと居眠りをしてしまった。
乗組員たちは、革袋に何が入っているのか、ずっと気になっていた。
オデュッセウスがあれほどに夜も眠らず大切にしているくらいだから、よっぽどな財宝が入っているに違いないと考えたのだ。
オデュッセウスは居眠りをしている、ちょっとだけ中を覗くくらいなら構わないだろう。
乗組員たちは、そう考えて、袋の口を開いた。
その途端、それまで順風だった風が逆風に変わってしまった。
みるみる内にイタケから遠ざかり、元来たアイオロスの島に吹き戻されてしまった。
アイオロスは、オデュッセウスの話を聞くと、たいそう怒って、約束を守れぬ者は、さっさとこの島を出て行け、とどなった。
オデュッセウスたちは、がっかりして、しかたなく島から船を出した。