トロイの木馬 (The Trojan Horse)
パトロクロス、ヘクトル、アキレウス、両軍の第一級の戦士が次々と死んでいくなか、それでもまだトロイは陥落しそうになかった。
恐れをなしたトロイ軍は城内に引きこもって一向に出てこなくなってしまったからである。
ギリシア側にも、もはやトロイ城壁を正攻法で攻め落とせる余力は残っていなかった。
そこで、知恵者オデュッセウスはかねてより計画していた策略をとうとう実行に移すことにした。
その作戦は「木馬の計」、すなわち「トロイの木馬」を使った一連の策略であった。
まず、オデュッセウスは大工のエペイオスに命じて巨大な木馬を建造させた。
これは当時としては前代未聞な巨大サイズの木馬であり、全高はトロイの城壁にも匹敵し、中は空洞になっていて五十人の兵士を収容できるという構造を持っていた。
次にオデュッセウスは、総指揮官アガメムノンに提案してトロイの海岸から全てのギリシア軍を撤退させた。
しかし、ギリシア軍はトロイの海岸から少し離れたテネドス島付近に待機していたのだった。
夜が明けてみると、前の日まで平原を埋め尽くしていたギリシア軍が影も形もなくなっていた。
これにはトロイ側もびっくりしたことであろう。
ギリシアの艦船は一隻も浜辺に残っていなかったし、ギリシア軍が築いた要塞はことごとく焼き捨てられて放棄されていたからだ。
十年にもわたる攻城戦はついに決着がついたかのように思われた。
ただ浜辺には一騎の巨大な木馬だけが残っていた。
「神々に捧げたものだろうか」「いいや、罠かもしれん」
トロイ人たちは、浜辺の木馬をいぶかしめに見つめて口々に言い合った。