イリアス（Iliad）（５）  イリアス ＆ オデュッセイア

メネラオス（Menelaus）


ギリシア陣営でのアキレウスとアガメムノンの内紛はすぐにトロイ側にも伝わった。

トロイ王プリアモスとその息子であるトロイ軍総指揮官ヘクトルは、篭城戦を決め込んでいた今までの方針を変更し、ついに城から打って出る決意を固めた。

城を打って出たトロイ軍とギリシア軍はそれぞれ平原へ兵を進めた。
トロイ軍はかしましい叫びを挙げて大空を翔ける鳥の群れのように、喚声を上げながら騒然と進んでいく。

一方ギリシア軍はこれとは対照的に声も立てずに進軍しながら、各自が胸中に激しい戦意を燃え立たせていた。
彼らの足元からは、砂煙が雲をなして舞い上がった。

さて両軍がいよいよ間近に迫ったとき、トロイ側の先陣にはトロイの王子パリスが現れ、ギリシア軍へ大声に呼ばわって一騎討ちを挑みかけた。

一方、これを見つけたスパルタ王メネラオスは胸を躍らせて、ギリシア軍の先陣へ飛び出した。
メネラオスにしてみれば自分の妻を寝取ったパリスを是非とも自分の手で討ち取ってやろうと思っていたに違いない。

メネラオスが猛々しく突進していくと、それを見たパリスはすっかり恐れをなしてしまった。

パリスは自分の陣地まで逃げ帰ったが、総指揮官であり兄でもあるヘクトルはパリスを激しくののしった。

「意気地なしめが！　お前は我々に恥をかかせる気か？ メネラオスはお前の挑戦を受けて立ったのだ。
お前が酷いめにあわせた男と、思う存分やりあえ！」

ヘクトルに叱責され、覚悟を決めたパリスは戦場へとってかえした。


   
            　　　　　　　


メネラオス　Menelaus

スパルタ王。ミケナイ王アガメムノンの弟。

多数の求婚者の中から選ばれて絶世の美女ヘレネの夫となり、一女ヘルミオネ（Hermione）をもうけたが、所用で国を留守にしていた間に、トロイの王子パリスにヘレネを連れ去られたため、トロイ戦争が起きた。

戦場ではパリスと一騎打ちをし、トロイの木馬の計略では彼は木馬に乗りこんだ一員だった。