イリアス(Iliad)(4) イリアス & オデュッセイア |
クリュセイス(Chryseis)
ギリシアがトロイの地を攻略し始めてから十年目に入ったある日事件が起こった。
奴隷として捕らえた娘クリュセイスの父で、アポロン神殿の神官クリュセスが娘の返還を求めて莫大な身代金を携えてギリシアの陣営にやってきたのだ。
クリュセイスは絶世の美女で、アガメムノンへの特別な報償となっていた。
皆一同、クリュセイスの返還に賛成したがアガメムノンだけは面白くなかった。
娘の返還を拒んだばかりか、神官を激しくののしり手荒く追い返してしまったのだ。
老神官は海岸の人気のないところまで来ると、自らが遣えるアポロン神にギリシアへの報復を祈願した。
アポロンは老神官の祈りを聞き届けギリシアの陣営に疫病(ペスト)をもたらす矢を打ち込んだ。
初めは家畜などが倒れたが、次第に兵士の間で疫病が広がりはじめ九日間ギリシア勢は苦しみ続けた。
十日目になり会議を開き、アキレウスは神官カルカスに神の怒りの原因を尋ねた。
カルカスは、疫病は先日アガメムノンが追い返した老神官のことでアポロン神が怒りペストを打ち込んだからであり、娘クリュセイスを返還し、さらに生贄をアポロン神へ捧げなければ神の怒りは解けないと告げたのだった。
一同はもちろん賛成したが、アガメムノンだけは当然不満で、しぶしぶ娘の返還は承知したが、その代わりアキレウスの奴隷であるプリセイスを要求し、さらにアキレウス自身をも侮辱した。
怒ったアキレウスは、その場で腰の剣を抜きアガメムノンを切り殺そうとしたが、その時女神アテナが現れ、「この償いは何倍にもなって帰ってこよう」と彼をいさめ、剣をひかせた。
アキレウスはアガメムノンを激しくののしり自分の陣屋に帰っていった。
アガメムノンの命令で、一隻の船が用意され、クリュセイスは父親の神官のもとへ送りかえされた。
そして、ギリシア人たちがアポロン神へ生贄を捧げたので、その怒りはしずめられた。
アポロン Apollon (芸術・弓術・予言・医術の神)
ゼウスとレトの間に誕生したアポロンは、エーゲ海の中心にある島で、双子の姉アルテミスとともに生まれた。
彼が生まれたとたん、島はまばゆい黄金の光に包まれ、この島はデロス(Delos 明るい)島と呼ばれるようになった。
光とともに誕生したアポロンは、生まれてすぐに「竪琴」と「弓矢」を要求し、自分は「ゼウスの意思を人間に知らせる」と宣言して予言の神となった。
アポロンは、ゼウスから与えられた白鳥の引く車に乗り、当時のギリシア人が大地のヘソに当たると信じていたデルフォイ(Delphoi)に向かう。
そしてそこで番をしていたガイアの息子で凶暴な蛇ピュトン(Python)を倒した。
そしてガイアの神託所を自分のものにして、ゼウスの意思を伝える場所にしたのである。
このときから人間は物事の真実や未来のことをアポロンが伝える神託によって教えられるようになった。
アポロンの性格は、人間の思い上がりを許さず、おごりたかぶる者には、矢を放って容赦なく殺した。
また、大勢の人間を罰する際には、無数の見えない矢で疫病を発生させるなど、残忍な側面を持ち合わせていた。
なお、古代ギリシアでは、男子が急死した場合、アポロンの矢に射られたと表現した。
(The Encyclopedia Mythica)
アポロン神殿(ギリシア中部、パルナッソス山麓の古代都市デルフォイ)
BC6世紀に建造。火災や地震の被害を受けて、その都度再建された。
現在はBC370年頃の遺構があり、6本の柱が復元されている。
幅23メートル、長さ60メートルのドリス式の神殿で、古代ギリシャで最も重要な神託所となった。
1987年に「デルフォイの考古遺跡」として世界遺産(文化遺産)に登録された。