二人のルメ子 1954年(昭和29年) ドラマ傑作選


「ルメ子という名まえのかたはおりませんか?」
ジャック・キャロオ氏は、記者会見の席で突然、このように尋ねた。
氏はバイオリンの世界的な名手で、このたびはるばるフランスからやってきたのだった。
娘からことずかった手紙と人形を、日本のルメ子という少女に届けるつもりだった。
だが、日本へ向かう途中で、住所が記されたその手紙をなくしてしまったのだ。
キャロオ氏の娘とルメ子はペンフレンドで、切手や絵を交換していたという。
「ルメ子さんは、いったいどこに?」
キャロオ氏のお願いという活字で、その記事はさっそく翌朝の新聞に掲載された。
「こりゃたいへんだ、すごいことになった!」
新聞の朝刊を読んだ東京の川崎氏は、娘のルメ子を呼んだ。
「有名なバイオリン奏者が、おまえを探しているらしい!」
川崎氏は興奮した口調で、娘のルメ子に告げる。
するとルメ子が言う。「いやだわ、私、フランスへ手紙を出したことなんか一度もないわ。
この人が探しているのは、きっと別のルメ子さんよ…。」
来日したバイオリンの大家が、パリの娘に託された人形をペンフレンドに届けようとするが、
その娘・ルメ子は、東京と大阪に二人いたというストーリー。
物語には、東京にいる富豪の令嬢のルメ子と、大阪の貧しく病弱なルメ子の二人が登場する。
ドラマの終盤で、東京のルメ子が大阪の病床にいるルメ子に花束を渡すシーンがある。
渡すのは東京のスタジオ、受け取るのは大阪のスタジオだったが、あたかも同一の場所で
撮られたように仕上がった。
生放送の当時としては、その高度な二元的映像処理が評判になったドラマである。
(制作)NHK(脚本)飯沢匡
(配役)川崎ルメ子(長岡輝子)小川ルメ子(村田その子)キャロオ氏(ジャック・ボードワン)東京放送劇団
