疑惑 2009年(平成21年) ドラマ傑作選
金沢の雨の夜、1台の車が海に転落。運転していた料亭の主人・白川福太郎(小林稔侍)が死亡。
同乗していた若い妻・球磨子(沢口靖子)は自ら脱出し、一命をとり留めた。
単なる事故で終わるはずだったこの出来事は、夫に8億円もの生命保険がかけられていたこと、
球磨子が前科4犯だったことから一変する。
北陸新聞社会部の記者・秋谷容子(室井滋)を筆頭に、マスメディアは球磨子の過去を暴き、
彼女を「稀代の悪女」と書きたて、ついに警察も球磨子を殺人容疑で逮捕する。
一貫して無実を主張する球磨子に心動かされた弁護士・佐原卓吉(田村正和)は、彼女を
無罪にするため、孤独な闘いを開始する。
九州の大分で実際に起きた三億円保険金殺人事件をヒントに松本清張が書いた問題作。
ドラマでは、事件や球磨子の過去を調べ直した佐原(田村正和)が、法廷で次々と検察側の主張を
突き崩していく姿が爽快だ。
なかなか本音を見せず、感情の起伏が激しい球磨子を沢口靖子が好演しているが、いつもの彼女の
イメージと違った悪女ぶりが印象に残る。
球磨子は後妻で身持ちの悪い女だった。保険金目当ての殺人と誰もが思い、記者の秋谷(室井滋)は、
状況証拠をもとに、球磨子有罪説を積極的にキャンペーンする。
本作は、マスメディアを発端にした冤罪事件を取り扱っている。物的証拠はないのに「こいつが怪しい」
という報道が扇動的に垂れ流されると、大衆もその報道に踊らされることになる。
さらにマスメディアの追求は警察や裁判所にまで及ぶようになる。
ドラマでは「社会正義」の名の下に、好き放題な報道をするマスメディアの傲慢さが描かれている。
テレビもまたマスメディアの代表だが、そのテレビが、マスメディアの恥部を主題にしたドラマを
やったことに大きな意義があったのではなかろうか。
(制作)EX(テレビ朝日)(原作)松本清張(脚本)竹山洋
(配役)佐原卓吉(田村正和)白川球磨子(沢口靖子)白川福太郎(小林稔侍)
秋谷容子(室井滋)原山正雄(津川雅彦)藤原好郎(中村俊太)田中純子(真矢みき)