五人の斥候兵 1938年(昭和13年) 邦画名作選 |
これは中国前線の小さな拠点を占拠している一個中隊の物語である。
岡田隊長(小杉勇)は温情家であり、部下から敬愛されている。
ある日部隊に、前方の敵の状況を偵察するよう命令が下った。
藤本軍曹(見明凡太郎)以下五名の兵が斥候に出る。
敵中に潜入した途端、敵に発見され、ばらばらになって後退する。
やがてひとり、またひとりと部隊に帰り着いた。
だが、木口一等兵(伊沢一郎)だけがなかなか帰らない。
隊長以下、戦友たちはまんじりともせず、夜を徹して木口を待つ。
遂に諦めようとした時にやっと木口が帰り、一同心から喜ぶ。
翌日、出動命令が下って、部隊は更に転戦していく。
前年(1937年)の盧溝橋事件を契機に、日中戦争が本格化した時期に制作された作品である。
当然の事ながら、陸海軍による検閲も厳しくなり、映画でメシを食おうとするかぎり、
もっぱら戦争に役立つ映画を、せっせと作らざるを得なかったのである。
本作「五人の斥候兵」は、戦友愛の表現に重点が置かれており、問題なく検閲をパスした。
予定の時刻がきても帰隊しない兵士の身を案じる隊長や隊員たちの心情描写や帰隊した際の
喜び合う姿などが描かれ、戦争映画にある残忍な戦闘場面は殆ど登場しない。
重い荷物を背負った兵士たちが、ぬかるみのなかを黙々と進んでいく。
疲れ切った兵士が足を踏み外して泥んこの中に倒れる。すると隣を歩いていた戦友が、
自分自身も疲れ切っているにかかわらず、全力を振り絞って戦友を助け起こす。
こんな戦友愛が延々と描かれると、やはり兵士同士の友情の尊さを感じないでもない。
だが、至る所に厭戦的な雰囲気が漂う作品であり、表向きは国策映画の体裁となっているが、
むしろ戦争の空しさを暗に感じさせられる反戦映画に仕上がっている。
製作 日活
監督 田坂具隆(たさかともたか) 原作 高重屋四郎
配役 | 岡田部隊長 | 小杉勇 | 遠藤一等兵 | 長尾敏之助 | |||||||||
藤本軍曹 | 見明凡太郎 | 長野一等兵 | 星ひかる | ||||||||||
木口一等兵 | 伊沢一郎 | 軍医 | 佐藤円治 | ||||||||||
中村上等兵 | 井染四郎 | 大尉 | 北龍二 |