橋の上の霜 1986年(昭和60年) ドラマ傑作選
大田直次郎(武田鉄矢)は、うだつの上がらぬ下級武士だが、狂歌の世界では名を知られている。
歌会では「四方赤良」という号を名乗り、吉原の遊郭の主人たちを中心に狂歌の弟子がいた。
だが、遊郭に出入りするうちに、店の遊女・おしづ(秋吉久美子)と恋仲になってしまう。
直次郎には妻・里世(多岐川裕美)と二人の子どもがおり、妻子ある身の廓通いは、家庭を
巻き込んでの騒動へと発展してしまう。
江戸時代中期の狂歌師、大田蜀山人(本名、大田直次郎)の若き日を題材にした時代劇。
江戸の田沼時代には、空前の狂歌ブームが巻き起こった。
武士も町人も面白おかしい狂号を名乗り、身分の違いを越えて交流を深めた。
その流行の中心にいたのが「四方赤良(よものあから)」の名で活躍した大田蜀山人である。
下級の小役人ゆえ微禄ではあったが、パトロンが付き、それなりに遊ぶ金には困らなかった。
が、おしづという吉原の遊女を身請けして、なんと自分の家の離れに住まわすという暴挙に出る。
妻子を置き去りにして、妾にうつつを抜かし、大田家は家庭崩壊寸前となってしまう。
物語の見所は、文人として活躍する主人公が、女性問題で人生を大きく狂わせていく様である。
妻妾同居は、当時はそれほど珍しいことではなかったらしいが、それは大店の旦那の場合であり、
貧乏役人の家に吉原の元遊女が同居するのだから、決して平穏な同居とは言えない。
自業自得とは言え、直次郎は妻と妾の間で苦悩の日々を送ることになる。
平岩弓枝の原作のあとがきには、この作品はあくまで小説として書いたため、必ずしも史実でない
との断り書きが記されている。
主人公は女性に好かれる、いわゆるモテ男なのだが、その割には、本人は少しも幸せになれない。
江戸の粋人・蜀山人を、とことん人間臭い、野暮でどうしようもない男に描いた作品と言える。
(制作)NHK(脚本)平岩弓枝
(配役)大田直次郎(武田鉄矢)妻・里世(多岐川裕美)父・大田吉左衛門(浜村純)母・利世(阿部寿美子)
弟・島崎金次郎(岡本信人)おしづ(秋吉久美子)朱楽菅江(菅原文太)お節(新珠三千代)