北の家族 1973年(昭和48年) ドラマ傑作選
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函館山のふもとから、海に向かって、何本もの坂道が続いているあたり、
元町と呼ばれる一画に、その家族の家がある。
彼らは貧しいが助け合い、励まし合って生きている幸せな家族であった。
父親はリヤカーで、託されたものを運び届ける運送業を営んでいた。
ある酷寒の朝、荷を積んだリヤカーを、長い坂道に運び上げたとき、
急に車輪が横滑りして、リヤカーを手離してしまう。
その瞬間、リヤカーは坂道を一挙に滑り落ち、骨董屋の飾り棚に激突してしまった。
その結果、高価な品々を破壊し、その弁償金を支払うために、家族の運命が一変する。
母親は料理屋に、娘はスナックバーに、高校受験に励んでいた息子は日雇いに、
当の父親は、責任感に堪えきれず、北極洋の荒稼ぎ漁船に身を投じて、家を出てしまう。
良家の出であった妻は「それ見たことか」と実家に説得され、離婚を考えるようになり、
子供たちも、予想もせぬ方向に人生の進路を変えてゆくのだった…。
昭和46年の暮れ近く、粉雪の舞う函館港。
連絡船の発着所で、志津(高橋洋子)は、兄の和夫(清水章吾)を出迎えた。
東京で大工の修業に励んでいた和夫が、三年ぶりに函館へ帰って来たのだ。
夕方遅く志津と共に帰った和夫を、母親の春(左幸子)は温かく迎えるのだった…。
ドラマは、兄と妹の愛憎を軸に、庶民の家庭の危機と再建を描いたもので、
次々に家族を襲う試練に、勇敢に立ち向かう妹を高橋洋子が演じている。
その妹を優しく見守る兄には、新派出身のベテラン・清水章吾が起用された。
ヒロインの高橋は、1972年の松竹映画「旅の重さ」で、フレッシュな全裸シーンを
披露して話題を集めた19歳。
「ヌードで出た娘が、NHKの朝ドラに起用されるとは、異例の出来事だ」などと、
指摘する向きもあるが、明るく、屈託のない高橋演じるヒロインは、朝の茶の間に
さわやかなブームを巻き起こし、平均視聴率46.1%という驚異的な数字を叩き出した。
高橋は文学座の研究生(新人)だが、演技がどうこうと言うより、彼女の醸し出す
明るく溌溂とした雰囲気が、いかにも瑞々しく可能性を感じさせるのだ。
映画「旅の重さ」の主演に抜擢されたのも、それが買われたのだろう。
スターの素質は十分だ。
(制作)NHK(脚本)楠田芳子
(主題歌)赤い鳥「風は旅人」森るみ子「白い花」(作詞:楠田芳子、作曲:三枝成章)
(配役)佐々木志津(高橋洋子)和夫(清水章吾)春(左幸子)辰造(下元勉)信二(三浦康晴)
島田平吉(花沢徳衛)島田源太郎(西田敏行)三井正之(日下武史)語り(緒形拳)
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