古都 1963年(昭和38年) 邦画名作選
京都の呉服問屋に、一人娘として何不自由なく育った千重子。
ある時、両親から「お前は私たちの本当の親ではない」と知らされる。
だが、育ての親との仲は変わらずに睦まじかった。
祇園祭の晩、千重子は自分にそっくりの娘、苗子と出会う。
苗子と話すうちに、二人は互いが双子の姉妹であると知る。
父母を亡くした苗子に、千重子は一緒に暮そうと申し出るのだが…。
移りゆく京の四季を背景に、生き別れになった双子の姉妹の数奇な運命を描いた文芸ロマン。
女性映画の名匠とうたわれた中村登が、川端康成の不朽の名作を流麗かつ詩情豊かに綴る。
物語の主人公は、京都・中京にある由緒正しい呉服問屋の一人娘・千重子と、北山杉の村で
丸太の加工をして働く苗子。二人が大人になり偶然めぐりあったとき、物語が動きはじめる。
「古都」は、これまで三度映画化され、1963年の中村版では岩下志麻、1980年の市川版では
山口百恵、2016年の斉藤版では松雪泰子が、それぞれ主人公の二人を二役で演じている。
失われてゆく日本の美と伝統を小説の形でとどめておきたいというのが執筆動機のひとつで、
川端康成はこの小説を書くために、下鴨神社の近くの家を借り、一年間京都で生活している。
製作 松竹
監督 中村登
川端康成と「古都」
川端康成の同名小説は、1961年10月8日から、1962年1月23日まで朝日新聞に連載された。
映画化に当たり、原作者の川端康成が撮影現場に足を運び、指導監修を手掛けている。
結果、静謐で繊細、情緒的な川端の世界を忠実に再現した一品に仕上がっている。
5年後の1968年(昭和43年)川端は日本人として初めてノーベル文学賞を受賞する。
しかしその当時、受賞対象の作品名は発表されず、50年間非公開となっていた。
ようやく2016年(平成28年)川端の受賞作品が公開された。
スウェーデンアカデミーは、受賞対象は「古都」(The Old Capital)であり、
「まさに傑作と呼ぶにふさわしい」と絶賛した。(2017.1.4 日本経済新聞)