雲のじゅうたん 1976年(昭和51年) ドラマ傑作選
彼女の名は、小野間真琴(浅茅陽子)。秋田の城下町・角館の生まれだ。
小さい頃から、女の子としては珍しいものに憧れていた。飛行機である。
来日した女性飛行士キャサリン・スチンソンの雄姿を見て夢を抱いたのだ。
県立高女を卒業した真琴は、東京の旧藩主・白川家に行儀見習いに出た。
だが、単なる行儀見習いで満足するはずがない。
何とか飛行機に乗って大空を存分にとび廻りたい夢はふくらむばかり。
真琴の告白を聞いて、父親(中条静夫)は、腰を抜かさんばかりだった。
ハイカラな白川家当主(船越英二)のとりなしもあって、反対する父親を説得した彼女は、
ついに念願の飛行学校に通うことになった。
紅一点、男ばかりの中で、汗と油にまみれたきびしい訓練が始まった…。
大正から昭和の時代、父親の猛反対を押し切って飛行士になる夢を成就させた女性の物語。
女性の半生記という従来の朝ドラ路線を踏襲しながらも、ヒロイン像に大きな変化が見られた。
これまでは夫を立て、家庭を守る良妻型が多かったが、自分の夢を追い続ける主人公が登場。
「翔んでる女」という言葉が流行し、女性の自立が叫ばれた時流とも一致し、反響を呼んだ。
本作の主人公は、努力し苦労して夢を実現するというよりも、むしろ、持ち前の陽気な人柄と
行動力で信頼をかちとり、人々に「何とかしてあげたい」気持ちにさせ、次々に難関を突破
してゆく。そんな行動力溢れるヒロインを浅茅陽子が発溂と演じ、茶の間の人気をさらった。
劇中で、ヒロインの真琴は「それでは」という意味で「へば」という秋田弁を使っていた。
それで、東京に出てきた彼女は「へばちゃん」というあだ名をつけられてしまう。
番組が終了すると、この「へばちゃん」は、浅茅の代名詞になってしまった。
だが彼女は、それを逆手に取って、趣味である料理を題材に「へばちゃんの台所」という
著書を出版、さらに居酒屋「やちぼうず」を開店するなど、ドラマのヒロインさながらの
バイタリティを見せている。
(制作)NHK(脚本)田向正健
(主題歌)チェリッシュ「あの空へ帰ろう」(作詞:田向正健、作曲:坂田晃一)
(配役)小野間真琴(浅茅陽子)小野間左衛門(中条静夫)小野間たき(幸田弘子)高沢兼子(千石規子)
白川義信(船越英二)白川春子(馬渕晴子)利根優(高松英郎)茅野隆二(志垣太郎)