マッドメン   2009年(平成21年)       ドラマ傑作選

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主人公の名はドン・ドレイパー。大手広告代理店「クーパー社」の敏腕営業マンである。


彼が担当するクライアントはワケありだ。健康被害で世間からバッシングされるタバコ会社、

経営の傾いた老舗デパート、若いケネディの勢いに押される大統領候補ニクソンの陣営など、

みな事業や施策を進める上で大きな課題を抱えている。


「ドン・ドレイパーなら、我々のブランドイメージを変えてくれるに違いない!」

クライアントたちは、そんな期待と思惑を抱いて、彼のオフィスを訪れるのである。


だがしかし、ドン・ドレイパー自身もまたワケありの男だった。


表向きは洗練された身のこなしで、誠実な印象を与える人物だが、実は暗い過去を持つ。

彼はかつて脱走兵であり、戦闘で死亡した仲間になりすまして会社に籍を置いているのだ。


そのため彼は、本当の身元が露見するのではないかと恐れるあまり、神経症に陥ってしまい、

女性やアルコールに救いを求めて、状況をより悪化させているのだった。



ニューヨーク、マディソン街で働く広告マンたちは「マッドメン」と呼ばれている。

広告代理店が林立する街(Madison)の男たち(Men)という意味だが「狂人」といった

意味もかけられている。





広告業界は虚業(見せかけの産業)と言われる。たとえば「健康に悪い」という理由で

タバコの広告依頼を断れば、広告業は成立しなくなる。

要は「価値のないものを、いかに価値のあるものに見せかけるか」である。


本作の主人公ドン・ドレイパーも、自らの身元を偽った見せかけの人生を生きている。

それゆえ彼は広告で、クリエイターとしての秀逸な才能を発揮することができるのだ。


2007年、放映が開始された本作は、瞬く間にアメリカ国内で一大ブームを巻き起こし、

テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞を 4年連続で受賞。


人気の秘密は、タイトルの通り、マッドメン(狂気の男たち)が多数登場すること。

ニューヨークの広告会社の男たちが、オフィスでところ構わずタバコを吸い、酒を食らい、

女性秘書にセクハラを働く

さらに人種差別、不倫に横領、裏取引など数々の不道徳・不品行が、これでもかと言うほど

あからさまに描かれている。


とはいえ、今やアメリカも日本も、モラルやコンプライアンスに厳しくなったはず。

なぜ、このような過激なドラマが許されているのか?

それは、舞台が1960年代だからだ。まだ、タバコもセクハラも問題化する前の時代。


登場する黒人は、ほとんどがエレベーターボーイや家政婦であり、彼らは白人に対して

礼儀正しく従順だ。

ホワイトカラーのオフィスには、黒人やアジア系の人たちは見当たらない。

自主規制で描きにくくなったタブーも、時代を変えるだけで必然になるというわけだ。


若きジョン・F・ケネディ大統領の就任、そして暗殺や、キング牧師らによる公民権運動、

ベトナム戦争からアポロ宇宙計画まで、数々の歴史的大事件もこの時代を象徴していた。

視聴者は、1960年代にタイムスリップしたような気分が味わえるドラマだ。



マッドメン(Mad Men)(制作)AMC(アメリカ)(放映)CX

(配役)ドン・ドレイパー(ジョン・ハム)(声:山寺宏一)ベティ・ドレイパー(ジャニュアリー・ジョーンズ)(声:冬馬由美)

ロジャー・スターリング(ジョン・スラッテリー)(声:内田直哉)ピート・キャンベル(ヴィンセント・カーシーザー)(声:石田彰)

ジョーン・ホールウェイ(クリスティーナ・ヘンドリックス)(声:岡寛恵)ペギー・オルセン(エリザベス・モス)(声:小林沙苗)

ミッジ(ローズマリー・デウィット)(声:加納千秋)


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