にっぽん昆虫記     1963年(昭和38年)       邦画名作選
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大正七年、松木とめは、米沢の農家に生まれたが、実の父親は誰だか分からない。

父の忠次は無類の働き者だが、どうも頭が弱いようである。

大人になったとめの乳を吸い、とめと夫婦気取りで寝る有様だ。

とめは女工として働き始めるが、やがて地主の家へ嫁入りさせられる。




東北の貧農一家に生まれた女性の、製糸工場の女工から、売春組織のマダムになるまでの
半生を描く。左幸子が、昆虫のように執拗に生きる女性像を熱演している。


映画の中で、貧しい小作農家が、娘を地主に足入れ婚(身売り)させたり、生まれて来た
赤ん坊が女の子だったので口減らしする、という場面が登場する。

当時は、女性の社会的地位が低い時代であり、主人公のとめも、売春稼業に身を沈めながら、
それでもたくましく生きる。そんな女の生きざまが、冷徹きわまる視点で描かれている。



本作は、今村昌平が、下層社会の裏街道を生きてきた実際のモデルを取材し、リアリティを
持ったシナリオを書き上げ、生々しい現実感溢れる映像に作り上げた傑作である。

主演の左幸子は、ハードでリアルなセックスシーンに挑戦しており、公開当時、映倫に
成人指定とされた。人気が頼りの他の日活女優では、こんな役はできなかっただろう。

彼女は、その体当たりの熱演が評価され、翌年、ベルリン映画祭で主演女優賞を受賞している。



 
 
  製作  日活

  監督  今村昌平

  配役 松木とめ 左幸子       娘 信子 吉村実子
  父 忠次 北村和夫       松波 長門裕之
      母 えん    佐々木すみ江          唐沢    河津清三郎 

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