日本の日蝕   1959年(昭和34年)       ドラマ傑作選

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昭和20年2月、吹雪の夜。村の駐在所の電話の音が鳴った。


憲兵隊からで、脱走兵が村に向かったという知らせだった。

大貫巡査(伊藤雄之助)は、戸締まりを厳重にするようにと村を巡回する。


村人たちは、脱走兵は自分の肉親かもしれないと思いつつ、固く戸を閉ざす。

一夜明け、脱走兵は死体で見つかった。

鉄道自殺で、身元は大貫巡査の一人息子だった。




本作は戦時中、村に逃げこんだ脱走兵を、父親の巡査や村人が見殺しにする話である。

村人は自分の息子か夫かもしれない姿なき脱走兵に怯え、戸を閉ざしてしまう。

脱走兵は国賊扱いだが、その兵士の家族も白い目で見られ村八分にされてしまうからだ。


本来、心の拠りどころであるはずの家族(父親)や村人たちから見離された脱走兵は

絶望のあまり自ら死を選ぶ。


脚本の安部公房は、戦争の被害者とされている民衆が、実は加害者となってしまう

不条理を描きたかったと語る。


脱走兵は自殺ではあるのだが、脱走を村全体の恥だとする父親や村人たちによって、

死に追いやられてしまった。

つまり彼らは「お国のために」という言葉に盲目的に従って、村に逃げ戻った脱走兵を

自殺へと追いやった加害者なのだ。


演出の和田勉は、非日常的な映像、クロースアップを執拗に多用して、彼らの不気味な

たたずまいの中に、戦争の不条理をくっきりと浮かび上がらせた。

本作は「私は貝になりたい」(1958年)とともに、反戦ドラマを代表する作品である。



(制作)NHK大阪(脚本)安部公房

(配役)大貫巡査(伊藤雄之助)村長(山田巳之助)村長の妻(吉川雅恵)助役(伊東亮英)

住職(加藤精一)村の老人(松居茂美)村の女A(津島道子)村の女D(中畑道子)


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