信子とおばあちゃん 1969年(昭和44年) ドラマ傑作選


昭和44年春、高校を卒業した信子(大谷直子)は、何の疑いもなく父や兄のように「先生」になろうと思った。
佐賀大学教育学部への受験には、自信を持って臨んだ信子だった。
が、試験二日目の朝、途中の道で車にはねられてしまった。
幸い軽傷で済んだものの、入院する羽目になった信子は、入試を断念せねばならなくなった。
それぞれの道を歩み始めた久子(二木てるみ)や一彦(下條アトム)ら、級友たちのはずんだ姿を見るにつけ、
信子は憂うつになるのだった。
信子は、九州・佐賀の生まれ。高校の教頭である父の健一(北沢彪)と母の邦子(加藤道子)、中学で数学を
教えている兄の武司(伊藤孝雄)、そして中学三年の克己(高塚徹)の5人が信子の家族だ。
その兄の武司が、5月に佐賀の旧家の娘と結婚することになった。
この式に出席するため、信子のおばあちゃん、佳年(かね)(毛利菊枝)が、10年ぶりに東京からやってきた。
佳年(かね)は、明治29年佐賀の生まれ。今は東京の次男・欣二(根上淳)のもとで暮らしている。
その昔、佐賀にいたころ「筋金入りのかねちゃん」というニックネームを持っていたおばあちゃんだ。
明朗闊達、イジイジしたことは大嫌いで、些細なことにはこだわらない。
このへん信子と好一対で、難問にぶち当たって、これを処理するときのチームワークは万全といえる。
そんな信子とおばあちゃんだが、いよいよ一緒に暮らすことになった。
兄の結婚式も無事に終わり、東京へ帰るおばあちゃんから、帰り際にこう言われたのだ。
「最低一年間、東京へ来てお手伝いをやるんだね。私が365日、みっちりと鍛えてあげるよ」
漠然と浪人して来年の大学受験を考えていた信子だったが、そんなおばあちゃんの言葉に心機一転、
東京行きを決心するのだった。
不慮の事故で大学受験を断念した信子が、東京のおばあちゃんのもとで、周囲の人々の励ましで
強く明るくさわやかに生きていく姿を描く。
ヒロイン信子を演じた大谷直子は、東京・赤羽商業高校を卒業したばかりの18歳。
中学時代から演劇に興味を持っていたが、一年前、岡本喜八監督の映画「肉弾」のヒロインに
起用されて念願を果たした。
しかし映画はヒットしたものの、彼女は依然として無名の高校生だった。
回転魚雷に乗って死地におもむく主人公を演じた寺田農は、俳優として脚光を浴びたが、
彼女の名が人々の口に上ることは少なかった。
だがその映画を、たまたま見たNHKのディレクター氏の目にとまり、朝ドラの主役に抜擢された。
「演技に関してはまだシロウト同然だが、素直で飾り気がなく、目立たない美しさの持ち主なので、
その持ち味を買いました」と、そのディレクター氏の談。
おばあちゃん役で共演の毛利菊枝も「けなげで頑張り屋の大変いい子ですよ」と、すっかり彼女の
人柄に惚れこんだ様子だった。
この毛利菊枝氏は、実は原作者の獅子文六が1925年(大正14年)岸田国士とともに創設した「新劇研究所」
の第一回研究生という大御所の女優なのである。
ちなみに「毛利菊枝」という芸名も、獅子文六が命名したもの。
そんな毛利おばあちゃんと、大谷直子の息の合った演技が一年間、お茶の間の話題をさらうことになった。
(制作)NHK(原作)獅子文六(脚本)井手俊郎
(配役)小宮山信子(大谷直子)小宮山佳年(毛利菊枝)小宮山健一(北沢彪)小宮山邦子(加藤道子)
小宮山武司(伊藤孝雄)小宮山克己(高塚徹)小宮山欣二(根上淳)小宮山滝子(丹阿弥谷津子)
高橋久子(二木てるみ)谷口一彦(下條アトム)笹崎真(田村亮)
