塗られた本 2007年(平成19年) ドラマ傑作選
出版社の女社長・紺野美也子(沢口靖子)は、かつては銀座で伝説のホステスといわれていた。
夫の卓一(勝村政信)は、芥川賞を受賞した作家だが、今は若年性アルツハイマーに侵されて
日常生活もままならない。
美也子は、そんな夫を何とか再起させ、彼が執筆した作品を自分の会社から出版したかったが、
その為には有名作家のヒット作を出版して実績を作る必要があった。
そこで、売れっ子作家の青沼(吹越満)に近づき、強引に書き下ろし小説の原稿を依頼する。
一流ホステスだった美也子は、女の武器をちらつかせ、青沼に原稿の執筆を承諾させるが…。
1962年(昭和37年)「婦人倶楽部」に連載された松本清張の同名サスペンス小説のドラマ化。
作家の夫を再起させるため、美貌を武器に策をめぐらす主人公を沢口靖子が熱演している。
周囲の男たちを踏み台に、自らの望みを遂げるという点で「けものみち」「黒革の手帖」と
同じ流れの作品と言えそうだ。
だが番宣で紹介された「悪女」「魔性の女」などという表現は妥当ではない。
なりふり構わず、男たちを翻弄したのも、全ては夫を再起させるためであり、女性が発言力を
得るためには、自らの美貌という武器を利用するしかなかった当時の時代性も垣間見られる。
本作は、サスペンスというよりも、むしろ夫婦の絆を軸としたヒューマンドラマ的な色彩が
強くなっている。
病に侵されて書けなくなった作家の夫に再びペンを持たせるため、必死になって奔走する妻の
一途な愛の強さに、観る者は心打たれるのである。
(制作)ドリマックス、TBS(原作)松本清張(脚本)田中晶子
(配役)紺野美也子(沢口靖子)紺野卓一(勝村政信)青沼禎一郎(吹越満)
野見山房子(岩佐真悠子)小川継男(小野武彦)井村重久(本田博太郎)