鬼火    1956年(昭和31年)       邦画名作選

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しがないガス集金人の忠七は、地道に働いてはいるが安月給で嫁ももらえない。

ぐずぐずしていると頭が禿げてくると心配しているモテない男である。

ある日、忠七は同僚から集金が難しいと言われた焼け跡の一軒家を訪れる。

出てきたのは美貌の若妻で、寝たきりの夫に薬を飲ますことができなくなるので、
ガスを止めないでほしいと懇願される。



「婦人公論」に掲載された吉屋信子の同名小説を、菊島隆三が脚色、千葉泰樹が映像化した。

ガス集金人の歪んだ欲望が生み出す恐怖と悲劇を描く。加東大介が小心者の主人公を好演。


独身でうだつが上がらない集金人の忠七は、仲間も寄り付かないような荒れ果てた家を訪れる。

家には、極貧の夫婦がひっそりと暮らしていた。
夫婦は、元々善良な庶民であり、彼らを極貧にさせたのは、病気と言う世間で良くある不幸である。

夫婦はそれでも、最後まで心を荒ませてはいない。最低限の人間としての品位を保とうとしている。
若妻にガスを止めないでくれと哀願された忠七は、その代償に悪党ぶって体を差し出せと要求する。


数日が過ぎ、再度、集金に行ったとき、忠七は恐ろしい光景を目にする。

ガス代も払えぬほど貧しい女は、病身だった夫の亡骸の傍らで首を吊り、自ら命を絶っていた。
集金人の忠七に見せつけるかのように、ガスの火はつけっぱなしにされたままだった。

自分は、絶望の縁に立っている女を、絶望の底に突き落とすようなことを言ってしまったのだ。

忠七は、堪忍してくれ!堪忍してくれ!と叫びながら、家を飛び出して行った。
まるで鬼火のように燃え盛るガスの炎に、忠七は、女の怨念を見たのである。


本作には「七人の侍」(1954年)の出演者が多く登場している。千葉監督が、それぞれの役者の
持ち味を重視して、意識的にキャスティングしていることが伺える。

津島恵子は、ここでも美しく哀しいまでに薄幸な女性を見事に演じている。



 
 
 製作  東宝

  監督  千葉泰樹

  配役    忠七 加東大介 水原 中村伸郎
      ひろ子    津島恵子        松田しげ   清川玉枝 
      夫 修一 宮口精二 奥さん 中北千枝子

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