路上の霊魂   1921年(大正10年)     邦画名作選
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山峡の伐採場の主人・杉野(小山内薫)には、浩一郎(鈴木伝明)という息子がいる。

浩一郎は、父の反対を押し切って、家を飛び出し、東京で音楽家をしていた。

しかし志虚しく音楽界を追われ、妻と娘を連れて故郷の実家へ帰ろうとする。

同じ頃、刑務所を出たばかりの二人組も、空腹を抱えてこの山峡に迷い込んでいた。


夜が明けるとクリスマスだった。杉野家の別荘ではその支度に忙しい。

だが、やっとのことで帰り着いた浩一郎に対する父の態度は冷たかった。

やむなく浩一郎は、妻子だけを残して、あてもなく雪の夜道へ出て行った。

一方、出獄した二人は、別荘に忍び込もうとして、番人の老爺に見つけられる。

平身低頭する二人に、老爺は哀れを覚えて温かい食べ物を恵んでやるのだった。


一夜明けた朝、二人の出獄者は、心から更生を誓って別荘を去っていった。

そして間もなく、老爺は、雪の中に倒れている冷たい浩一郎の姿を発見するのだった。




ドイツの劇作家・シュミットボン「街の子」とロシアの作家・ゴーリキー「夜の宿」
を題材に、牛原虚彦が脚色、村田実が監督して映画化したもの。


一つの狭い山峡を、歩み来たり、歩み去った二組の人生。

ひと組は、刑期を終えたばかりの男二人。もうひと組は、困窮した男とその妻子。

その一方は温かい人の情に触れて蘇り、もう一方は冷たく路上に倒れ伏す。

映画は、寛容の心の有無によって、人生が大きく左右されてしまう事を説いている。



息子を演じた鈴木伝明は、日本初の大学出のスターとして話題になった俳優である。

本作「路上の霊魂」は、彼がまだ明治大学在学中に、家に内緒で出演したもの。
名前がバレるのを恐れ「東郷是也」の芸名で出演している。

その芸名は「To Go There」をもじったもので、こんな名前のつけ方一つをとっても、
当時の俳優には珍しいインテリ振りだったようだ。

ちなみに父親を演じた小山内薫も東大英文科卒で、これ一本だけの出演だったが、
彼もまた一応、もう一人の日本初の大学出の俳優といえる。


大正末期から昭和の初めは、日本映画は旧来の新派劇から、西洋の映画の影響を受けて
現代劇へと脱皮して行く過程にあった。

また当時の映画評論家の多くは、知識層が中心であったため、本作は従来の枠に
留まらない前衛的な傑作として、高い評価を集めた作品となった。


 
 
 製作   松竹

  監督   村田実

  配役    杉野泰 小山内薫 浩一郎の許婚・光子 伊達竜子
      息子・浩一郎 東郷是也 別荘の令嬢 英百合子
      妻・耀子 沢村春子 別荘番の老爺 岡田宗太郎
      娘・文子 久松三岐子 樵夫・太郎 村田実

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