清作の妻   1924年(大正13年)     邦画名作選
直線上に配置                                      

軍隊生活から帰った村の模範青年清作(葛木香一)の前に、近くの港町で妾奉公を
していたお兼(浦辺粂子)が現われ、二人は恋仲となり結婚する。

模範青年を奪ったお兼に、村人たちの白い眼が向けられる。

戦争が始まり、清作が出征すると、お兼は独りぼっちになり、村人たちに苛められる。


清作が負傷して帰り、再び出征する時、お兼は、清作と別れるのが辛く、思い余って
かんざしで男の両眼を潰す。

三年の刑を終えて、お兼が出獄して来た時、清作はその心情を哀れんで許す。

しかし、村人はお兼を非難してやまない。遂に夫婦は近くの河に身を投げて死ぬ。



1918年(大正7年)月刊総合誌「太陽」に掲載された吉田絃二郎の同名小説の映画化。

原作の小説は、反戦文学の傑作のひとつに数えられている。主人公の夫婦を心中という
悲劇に追い込んだ元凶として、戦争が告発されているからである。


この意味で本作は「初の反戦映画」となったのだが、夫を戦争にとられないため、
かんざしでその両眼を突くお兼。その行為には、反戦思想など微塵もない。

彼女には、清作だけが唯一絶対の価値なのである。疎外され続けた無知で愚直な女が、
やっと手に入れた幸せに、ひたすら縋る姿に観る者は胸を締めつけられる。


このようなエゴイスティックな愛情から、社会生活の破綻を招き、自ら死の淵に投じて
ゆく女の姿を描いた本作は、当時としては頗る新鮮に受けとめられた。

ヒロインお兼を演じた浦辺粂子は、新人ではあったが、難しい役柄を見事に演じ切り、
日活の主演女優としての地位を不動のものとしたのである。



 
 
 
 
  製作   日活

  監督   村田実  原作 吉田絃二郎

  配役    清作 葛木香一 兵助 吉田豊作
      お兼 浦辺粂子
      清作の母 市川春衛
      清作の妹 徳川良子

直線上に配置