やっちゃば育ち 1974年(昭和49年) ドラマ傑作選
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16歳のタエ(中田喜子)が「花時」にやって来たのは、昭和二年の年の暮れだった。
「花時」は、幼馴染の庄作(小倉一郎)が働いている東京・京橋の青果問屋である。
秩父の山村に生まれ育ったタエは、貧乏と因習に耐えかねて村を飛び出し、二日間
歩き続けて、ようやく「花時」の店にたどりついたのだった。
店は放漫な経営がたたって、すっかり左前になっていたが、女中になったタエは、
持ち前の情熱をかたむけて働き出した。
昭和六年、花時に来てから三年半がたち、タエは二十歳になっていた。
タエは花時の長男・竜一(中山仁)の世話と、竜一の妹・久江の子・三千男の守りで
充実した毎日を送っていたが、その竜一に縁談が持ち上がった。
相手は得意先の娘で、相手先に借金もあったため、竜一はやむなく見合い結婚した。
四年後、竜一はタエに帳場を頼むといって出征していった。
戦局は日ごとに厳しくなっていき、タエは竜一の無事をひたすら祈った。
だがある日、竜一の戦死の知らせが届く…。
昭和のはじめ、秩父の山奥から東京・京橋にあるやっちゃば(青果市場)にやって来た
百姓娘・タエが、破産寸前だった店を立て直してゆく物語。
その主役に決まった中田喜子は、偶然にもやっちゃばのある東京・築地の生まれ。
しかも実家は中央卸売市場の仲買店ということで、文字通り、やっちゃば育ちだ。
姉が宝塚にいたことから、芸能界に興味をもち、高校卒業と同時にこの道に入った。
もっぱらドラマのワキ役をつとめてきたが、今回のような大役ははじめての体験、
だが下町娘の根性と努力で、なんとか乗り切った。
共演は、中山仁、小倉一郎、田崎潤、高品格らが脇を固めてヒロインの中田を支えた。
ナレーターは、ベテランの久米明が務め、その絶妙な語り口でドラマを盛り上げた。
(制作)TBS(脚本)田口耕三
(配役)島村タエ(中田喜子)戸山庄作(小倉一郎)花田竜一(中山仁)花田時造(田崎潤)
つや子(工藤明子)久江(植木まり子)三千男(池田秀一)吾平(寄山弘)おかつ(大山のぶ代)
小田村(神田隆)留八(高品格)弘二(田中博史)番頭保吉(青森伸)ナレーター(久米明)
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