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【第五課 第二十一節】 小説読解
「还珠格格」 (二) 琼瑶
“不要灰心,金锁。
我一定可以想办法来见这个梁大人的!见不着,再想别的门路!
他家明天要办喜事,总不能把贺客往门外赶吧?是不是?”
“小姐,你是说………。”
“准备一份贺礼,我们明天去梁府道贺!…。”
紫薇并不知道,她这一个决定,就决定了她的命运。
因为,她会在这个婚礼上,认识另一个女子,她的名字叫作小燕子。
小燕子是北京城芸芸众生中的一个小人物。
今年也是十八岁。
在紫薇拦轿子的这天晚上,小燕子穿着一身“夜行衣”,翻进一家人家的围墙。
这家人第二天就要嫁女儿,正是要嫁进梁府。
用小燕子的语言,她是去“走动走动”,看看有什么东西“可拿”!
新娘子嫁妆一定不少,又是嫁给梁府,不拿白不拿!
她翻进围墙,开始一个一个窗子去张望。
她到了新娘子的窗外,听到一阵鸣鸣咽咽的饮泣声。
舔破了窗纸,她向里面张望,不看还好,一看大惊失色,原来新娘子正爬在一张凳子上,脖子伸进了一个白绞圈圈,踢翻了椅子在上吊!
她忘了会暴露行踪,也忘了自己的目的,想也没想,就一推窗子,穿窗而入,嘴里大叫:
“不好了!新娘子上吊了!”
梁府的婚礼非常热闹。
那天,紫薇穿了男装,化装成一个书生的样子,金锁是小厮。
自从去年十月离开济南,她们一路上都是这样打扮的。
虽然,她们自己也明白,两个人实在不大像男人,但是,除了女扮男装,也不知道该怎什办才好,女装未免太引人注目了。
好在,一路上也没出什么状况,居然就这样走到了北京。
婚礼真是盛大非凡。
她们两个,顺利的跟着成群的贺客们,进了梁府的大门。
吹吹打打,鼓乐喧天。
新娘子被一顶华丽的大轿子抬进门。
紫薇忍耐着,好不容易,等到新娘凤冠霞帔的进了门,三跪九叩的拜过天地,扶进洞房去了。
梁大人这才从“高堂”的位子走下来,和他那个趾高气昂的儿子,眉开眼笑的应酬着宾客。
紫薇心想,这个机会不能再放过了,就混在人群中,走向梁大人。
“梁大人……” 紫薇扯了扯梁大人的衣袖。
“你是?……” 梁大人莫名其妙的看看紫薇。
紫薇有所顾忌的看看闹哄哄的四周。
“我姓夏,名叫紫薇。有点事想麻烦梁大人。能不能借一步说话?”
“借一步说话?为什么”
这时,梁大人的儿子兴匆匆的引着一名老者过来,将紫薇硬给挤了开去。
“爹,赵大人来了!”
梁大人惊喜,忙不迭迎上前去。
紫薇不死心的跟在梁大人身后,亦步亦趋。
心里实在很急,说话也就不太客气:
“梁大人,该上衙门当差你不去,到你家里跟你说句话也这么困难,难道你一点都不在乎百姓的感觉吗?”
梁大人看着这个细皮自肉,粉妆玉琢的美少年,有些惊愕。
“你是那家的姑娘,打扮成这个模样?
去去去,你至外面玩去!
亲戚们的姑娘都在花厅里,你去找她们,别追在我后面,你没看到我在忙吗?”
“昨大才见过,你就不记得了吗?
拦轿子的就是我,夏紫薇!”
“什么?你混进来要做什么……”
梁大人大惊,这才真的注意起紫薇来。
谁知就在这个时候,一个突发的状况,惊动了所有的宾客。
一个红色的影子,像箭一般直射而来,闯进大厅。
大家一看,不禁惊叫,原来狂奔而来的竟是新娘子!
她的风冠已经卸下了,脸上居然是清清爽爽,脂粉不施,她的背上,背着一个庞大的、用喜幛包着的包袱。
在她的身后,成群的喜娘、丫头、家丁追着她跑,喜娘正尖声狂叫着:
“拦着她!她不是新娘子!她是一个女飞贼呀!”
那个“女飞贼”正是小燕子。
她横冲直撞,一下子就冲了过来,竟然把梁大人撞倒在地。
所有的宾客都惊呼出声。
紫薇和金锁也看得呆了。
这个局面实在太可笑了。
新娘子穿着一身红,背着红色大包袱,在大厅里跳来跳去,一群人追在后面,就是接近不到。
她,看来,她还有一些身手。
梁大人从地上爬起来,被撞得七荤八素。
“这是怎么回事?”
喜娘气极败坏的跑着,追着小燕子喊:
“新娘子不见了呀!她不是程家小姐,是个小偷……快把她抓起来呀!”
满屋子的客人发出各种惊叹的声音。
“什么”、新娘子被掉包了?岂有此理!新娘子到那里去了?”
“不知道呀,我刚才进房里的时候,看到这丫头穿着新娘的衣裳在偷东西!
她把整个新房都掏空了,全背在背上呢!”
“来人呀!快把她给我抓起来!”
一大群家丁,冲进房里来抓人。
小燕子在大厅里碰碰撞撞,一时之间,竟脱身不得。
身上的大包袱,不是撞到人,就是撞到家具,所到之处,桌翻椅倒,杯杯盘盘,全部跌碎,落了一地。
宾客们被撞得东倒西歪,大呼小叫,场面混乱已极。
当家丁们冲进来之后,房间里更挤了。
小燕子忙拿起桌上的茶杯糖果为武器,乒乒乓乓的向家丁门掷过去。
嘴里大喊着:
“你们别过来啊!过来我不客气了!看招!”
梁大人又羞又怒,气得跺脚。
“新娘子一定被她藏起来了!快抓住她!仔细审问!”
家丁大声应着,奋勇上前,和小燕子追追打打。
不料,这个“女飞贼”
还有一点武功,身手敏捷,背着个包袱,还能挥拳踢腿,把那些家丁打得唏哩哗啦,跌的跌,倒的倒。
可惜背上的包袱太大,东撞西撞,施展不开。
她忽而跳上桌。
忽而跳下地,把整个喜气洋洋的大厅,打得落花流水。
紫薇和金锁看得目瞪口呆,对这个“女飞贼”折服不已。
金锁忍不住对紫薇低语:
“哈!这个女飞贼,帮我们报了拦轿子的仇了!
这就叫………
“恶人偏有恶人磨!”紫薇笑了。
心想,这个女飞贼,还不一定是“恶人”呢!
小燕子几次想冲到窗前,都破背上的包袱报阻。
家丁却越来越多。
她四下一看,见情势不妙,当机立断,飞快的卸下包袱,一把拉开,金银珠宝顿时满天洒下。
她大嚷:
“看呀!梁贪官的家里,什么都有,全是从老百姓那儿搜刮来的!
大家见到的都有份!
来呀!
来抢呀!
谁要谁拿去,接着啊……不拿白不拿!”
宾客见珍珠宝贝四散,惊呼连连,拥上前去观看,忍不住就抢夺起来。
小燕子乘隙逃窜。
逃到紫薇和金锁身边,紫薇看了金锁一眼,双双很默契的遮了过去,挡住了她,小燕子顿时穿窗而去。
梁大人怒不可遏,暴跳如雷。
“反了反了!
天了脚下居然有这样荒唐的事……追贼呀!
大家给我追呀………。
厅里的人,追的追,跑的跑,喊的喊,挤的挤,捡的捡……乱成一团。
紫薇拉拉金锁,在这一片混乱中,出门去了。
出了梁府的大门,紫薇和金锁走在路上,两人虽然没办成自己的事,却不知道为了什么,
兴奋得很“这天下之大,真是无奇不有,这个婚礼,真让我大开眼界!”
“那个父飞贼,胆子不小,可惜武功不高,这下要空手而回了!
可惜可惜!…“空手而回还没关系,别被抓起来才是真的!”
正说着,街上就传来一阵吆喝声,一队官兵冲散行人,其势汹汹。
“让开!让开!不要碍着咱们抓贼!有没有人看到一个红衣女子?
有没有?谁藏着女贼,和女贼一起抓起来!知道的人快说!”官兵们嚷嚷着。
行人摇头,纷纷走避。
官兵走到紫薇金锁身前,仔细看二人,挥手说道。
“让开让开!别挡着路!到一边去!”
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【注 釈】
【还珠格格】 huán zhū gé ge 還珠姫 (かんじゅひめ)
台湾の女流作家 「瓊瑤」 (けいよう) による時代冒険小説。(1997年)
舞台は清朝、名君の誉れ高い乾隆帝治世の御代。
女盗賊の小燕子は、ひょんなことから皇帝の落とし子と勘違いされ、宮中に迎えられることに…。
【琼瑶】 qióng yáo 瓊瑤 (けいよう) (1938-)
四川省成都出身。台湾在住の女流作家。1963年恋愛小説 「窓外」 がベストセラーになり注目を浴びる。
流麗で上品な作風が人気を博し、多くの作品は映画やテレビドラマに改編された。
代表作品 「一廉幽夢 1974」 「在水一方 1975」 「我是一片雲 1976」 「还珠格格 1997」 など。
【乾隆】 qián lóng 乾隆帝 (けんりゅうてい)
清朝第六代皇帝 (在位1735~1795) 大いに学術を奨励し、清王朝の最盛期を創出した。
【紫薇】 zǐ wēi 夏紫薇 (か しび)
19年前にお忍びで済南地方を訪れた若き乾隆帝と夏雨荷 (か うか) の間に生まれた姫君。
【金锁】 jīn suǒ 金鎖 (きんさ)
幼少の頃より紫薇に仕えている侍女で、北京へも共に出て来た。
【小燕子】 xiǎo yàn zi 小燕子 (しょうえんし)
もと女盗賊。ある事件をきっかけに皇帝の落とし子と勘違いされ、宮廷に姫と迎えられる。
【芸芸众生】 yún yún zhòng shēng (众多的平常人) 一般人
【夜行衣】 yè xíng yī 黒装束
【嫁妆】 jià zhuang 嫁入り道具
【大惊失色】 dà jīng shī sè 顔が真っ青になる
【白绞圈圈】 bái jiǎo quān quan 白布で綯った輪
【上吊】 shàng diào 首つり自殺をする
【小厮】 xiǎo sī 若い召使い
【凤冠霞帔】 fèng guān xiá pèi 鳳凰の冠に刺繍の肩掛け
【三跪九叩】 sān guì jiǔ kòu 三拜九拜
【洞房】 dòng fáng 新婚夫婦の部屋
【高堂】 gāo táng ご尊父ご母堂
【趾高气昂】 zhǐ gāo qì áng 得意満面
【眉开眼笑】 méi kāi yǎn xiào にこにことうれしそうな顔
【莫名其妙】 mò míng qí miào (不能理解) 合点がいかない
【忙不迭】 máng bù dié (十分匆忙) いそいそと
【亦步亦趋】 yì bù yì qū (追随别人) 人の尻馬に乗る。後に従う
【当差】 dāng chāi (做小官吏) 役人を務める
【细皮嫩肉】 xì pí nèn ròu (长得娇嫩)きめ細かい肌と柔らかい肉
【玉琢】 yù zhuó (姿容秀美) 顔かたちが美しい
【喜幛】 xǐ zhàng 祝いに贈る掛け物
【喜娘】 xǐ niáng 花嫁の介添え役をする女性
【七荤八素】 qī hūn bā sù (心神紊乱) くらくらして方向を見失う
【气极败坏】 qì jí bài huài (激动而慌张地说话) 当たり散らす
【掉包】 diào bāo (暗中掉换) こっそりすり替える
【岂有此理】 qǐ yǒu cǐ lǐ (哪有这个道理) 言語道断
【东倒西歪】 dōng dǎo xī wāi (身不由己) 右往左往する
【施展不开】 shī zhǎn bù kāi 力が発揮できない
【落花流水】 luò huā liú shuǐ (残败零落) さんざんな目に遭う
【恶人偏有恶人磨】 è rén piān yǒu è rén mó (坏人终不会有好下场) 悪には悪の報い
【当机立断】 dāng jī lì duàn 時機を外さず即断する
【默契】 mò qì (暗相契合) 暗黙の了解
【无奇不有】 wú qí bù yǒu (希奇的事物都有) 珍しいこともあればある
【空手而回】 kòng shǒu ér huí 労して功なし。徒労に終わる
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【口語訳】
還珠姫 (二)
「あきらめてはだめ、金鎖。なんとかして梁大人に会うのよ!
会えなくても、ほかに手立てはあるはず。そう婚礼は明日だと言っていたわ。
お祝いに来る客を、まさか邪険に扱うわけにはいかないでしょう?」
「お嬢さま、それってつまり…。」
「そうよ、祝儀を用意して明日、梁大人のお屋敷にお祝いにいくのよ!」
このとき紫薇は、自分の運命を左右する決断をした。
彼女は、ひとりの少女と婚礼の席で出会うことになる。
少女の名は小燕子(しょうえんし)。今年十八歳、北京城に暮らす平凡な娘である。
だが紫薇自身はそのことを知るよしもなかった。
その晩、小燕子は黒装束に身を包み、とある家屋敷に忍び込んだ。
この家の娘は、嫁入りを明日に控えていた。そう梁大人の家に嫁ぐのである。
娘が嫁ぐ前に、嫁入り道具をいただいて帰らぬ手はない。
小燕子に言わせれば、ちょっくら忍び込んで、めぼしいものをいただくという寸法だ。
塀を乗り越えた小燕子は、ひとつひとつ窓の点検をはじめた。
娘の部屋の窓まで来ると、何やら忍び泣く声を耳にする。
窓紙をなめ破って中をのぞいたとたん、小燕子は仰天して真っ青になった。
なんと娘は、白布の輪に首をつっこんで踏み台の椅子を蹴り、まさに首つり自殺を図ろうとしているではないか!
とるものもとりあえず、小燕子は窓をこじ開け、中に飛び込んだ。
「大変大変! 花嫁が首を吊ってるわよ!」
梁大人の屋敷では、婚礼が盛大に行われていた。
その日、紫薇は男装して書生の姿になっていた。金鎖のほうは召使いの扮装だ。
去年十月、済南を離れてから、二人はこのように男装して旅を続けてきた。
二人とも、男には見えないと分かってはいたが、やむをえなかった。女の恰好では、あまりに人目につきすぎたのだ。
幸い道中何ごともなく、無事に北京にたどりつけた。
婚礼は大盛況だった。紫薇と金鎖の二人も、他の客たちの後について、すんなりと屋敷の中に入ることができた。
やがて華やかな駕籠に乗った花嫁が、鳴り物入りで現れた。
きらびやかな肩掛けをまとった花嫁は、表門を入ると神仏に三拜九拜し、それから新婚夫婦の部屋に入って行く。
紫薇は、これらの儀式が終わるのをじりじりして待っていた。
すると梁大人が、尊父の席から降りて来て、得意げな息子と一緒に、相好を崩して客の応対をはじめた。
この機会を逃してなるものか。紫薇は人混みをかき分け梁大人のもとに向かう。
「梁大人…。」 紫薇が梁大人の袖を引っ張る。
「あんたは?…。」 梁大人が怪訝な顔つきで紫薇を見る。
紫薇は、騒がしい周囲をはばかり、遠慮がちに言う。
「私は姓を夏(か)といって、名は紫薇と申します。
聞いていただきたいことがあるのです。どうかお時間をいただけませんか?」
「話を聞けとな?なぜじゃ?」
この時、梁大人の息子が、ひとりの老人を連れ、あたふたとやって来た。彼は強引に紫薇を押しのける。
「父上、趙大人(ちょうたいじん)がおみえになりました!」
梁大人は驚喜して、いそいそと一緒について行ってしまう。
紫薇はあきらめず、梁大人のあとを小走りで追いかける。
苛立ちを覚えた紫薇は、ついぶしつけな口調になる。
「梁大人、役所にも出勤なさらず、やむなくお屋敷に伺えば話も聞いていただけない。
これでは庶民のことなど全くおかまいなしということではありませんか?」
見るからになまめかしい男装の紫薇に、梁大人は、いささか驚きの色を浮かべて言う。
「あんたはどちらの娘さんかね、そんな恰好をして?
さあさあ、あちらで遊んでいなさい!
親戚のお譲さん方は、みなさん大広間にいらっしゃる。あんたもみんなのところへ行っておいで。
わしのあとを追っかけまわすんじゃない。わしが忙しいのがわからんのかね?」
「昨日お会いしていますが、覚えておられませんか。駕籠をお停めしたのは私です。夏紫薇です!」
「なんだって?こんなところに紛れ込んでなにをしておる!」 梁大人は眼を丸くして紫薇の顔を見つめる。
この時、居合わせた客たちの肝をつぶすような事件が起こった。
真っ赤な影が矢のように大広間に飛び込んできたのだ。
なんと、狂ったように飛び込んできたのは花嫁ではないか! 客たちの驚愕の悲鳴があちこちで上がる。
花嫁はすでに被り物をかなぐり捨てていた。剥き出しになった素顔には白粉すら塗っていない。
背中には婚礼の織物でくるんだ巨大な包みがくくりつけてある。
その後を、介添人や侍女、下僕が群をなして追いかけている。介添人が大声でわめきたてた。
「捕まえて! こいつは花嫁じゃないんだ!女盗賊だよ!」
その神出鬼没の女盗賊こそ、まさに小燕子であった。
小燕子は、そのまま突進すると、あろうことか梁大人を突き飛ばした。
客たちの悲鳴が響く中、紫薇と金鎖はただ茫然と眺めていた。
これほどまでに奇妙な光景は、見たことがなかった。
全身真っ赤な衣装をまとった花嫁は、背中に巨大な赤い包みを背負い、
大広間中をちょこまかと駆け回っては、見事に追っ手を振り切っている。
どうやら武術の心得があるようだ。
梁大人は、ふらふらしながらようやく這い起きた。
「一体なにごとだ?」
小燕子を追い回していた介添人が当たり散らすように叫んだ。
「花嫁が雲隠れしたんです!あの女は程家(ていけ)の嫁じゃない。盗賊です……早く捕まえてください!」
そのとたん部屋中の客から驚愕の声が上がった。
「何だと! 花嫁がすり替えられたのか? もってのほかだ! 一体どこに行ったのだ?」
「わかりませんよ!さっき部屋へ行ったら、あの女が花嫁の衣装を着て盗みを働いていたんです!
部屋中の物を一切かっさらって、背中に背負いこんでるんです!」
「ええい、誰か早くあの女をひっ捕らえよ!」
梁大人の怒号に、下僕たちがどっと広間になだれ込む。
小燕子は、広間のあちこちにぶつかり、なかなか脱出できない。
背負った大きな荷物が、手当たり次第に人や家具にぶつかる。
卓は倒れ、椅子はひっくり返り、皿も杯もすべてなだれ落ちて床で砕けた。
客たちは悲鳴をあげながら右往左往するばかりだった。
さらに下僕たちがなだれ込んだため、部屋の中は混乱の極限に達した。
小燕子は、卓上の湯飲みや果物を下僕らに投げつけながら大声でわめく。
「こっちに来るな! 来たら承知しないよ! 思い知らせてやる!」
梁大人は、腹立たしさのあまり、足をじだんだ踏みならす。
「あの女が花嫁を隠したに違いない! 早く捕まえろ! 全部吐かせるんだ!」
下僕たちは、勇み立ってどっと追い打ちをかける。
だがこの女盗賊、大荷物を背負いながらも、敏捷に拳を繰り出し、蹴りを見舞い、果敢に抵抗を続ける。
だが背中の荷物の負担は大きく、あちこちにぶつかり、なかなか本来の実力を発揮できない。
卓の上下を跳び降りしては、かろうじて追っ手を逃れる小燕子。
婚礼の晴れやかな広間は、今や目も当てられないほどの惨劇の場と化してしまった。
紫薇と金鎖は啞然と眼を見張り、心服することしきりである。
金鎖は思わず紫薇に小声で話しかける。
「この女盗賊は、私たちが駕籠を停めたときの恨みを晴らしてくれたというわけですよね!」
「つまり悪人の末路は悲惨ということね!」
紫薇は笑いながら心の中で思った。「この女盗賊、必ずしも悪人とはかぎらないわ!」
小燕子は何度も窓から飛び出そうとしたが、背中の荷物に阻まれてうまくいかない。
一方、追っ手の下僕たちの人数は増えるばかり。
小燕子はあたりを見回し、形勢不利とみてすばやく荷物を下ろすと、中から金銀の真珠や宝石をとり出して大声を上げる。
「さあみんな!梁の悪徳役人の家にあるものは、みんな庶民から奪ったものよ!
さあさあいらっしゃい、早い者勝ち! 持ってかなきゃ損よ!」
客たちは、散らばった宝物を見ると、てんでに奪い合いをはじめた。
そのすきに小燕子は、紫薇と金鎖のところに走ってきた。
紫薇と金鎖はちらりと目配せを交わすと、小燕子をかくまって窓から逃がしてやった。
梁大人は、足を踏みならして烈火のごとく怒り狂う。
「こいつは謀反だ!天子のお膝元でこんなでたらめな事がまかりとおるとは!
追え!みなで女盗賊を追うのだ!」
広間にいた人々は、小燕子のあとを追う者、走る者、わめく者、押し合いへし合いする者、
お宝を拾う者……上を下への大騒動になった。
紫薇は金鎖の手をひいて、混乱に乗じて屋敷をあとにした。
屋敷を出た紫薇と金鎖は、当初の目的を果たせなかったが、なぜかわくわくして仕方がなかった。
「世の中って広いわね。ほんとに不思議なことばかり。この婚礼の出来事で大いに見聞を広めることができたわ!」
「あの女盗賊、すごい度胸でしたね。惜しむらくは武芸のほうがいまひとつで、最後は徒労に終わってしまったのが残念ですけど。」
「てぶらで逃げたとしても、捕まらなかったのだからたいしたものだわ!」
そのとき、騒がしいかけ声が聞こえてきたかと思うと、官兵の一隊が通行人を蹴散らしながらやって来た。
「どけ!どけ!邪魔をするな! 赤い服の女を見た者はいないか? いないのか?
知っている者は早く申し出ろ! かくまうと一緒にしょっぴくぞ!」官兵たちは大声をあげた。
通行人たちは頭を振って、そそくさとその場を離れる。
官兵は紫薇と金鎖の前に来ると、じろりと二人を見やって手を振った。
「どけどけ! 道をふさぐな! あっちへ行け!」