1月23日    魔女の飛行術    (Aeronautics of Witchcraft)            
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魔女の飛行アイテムといえば「魔法のホウキ」だが、それは空を飛べるホウキがあるわけではなく、実は「魔女の軟膏」という秘薬を使うのである。

空中飛行を可能にする「魔女の軟膏」には各種の作り方がある。
その製造法はベラドンナ(300g)、ヒヨス(150g)、トリカブト(150g)、チョウセンアサガオ(100g)、オランダ・パセリ(100g)、サソリ(3匹)、
トカゲの舌(30匹分)、馬の陰茎(1本)、ガマガエルから採った脂肪(150g)を大鍋に入れ、棺桶に溜まった水を適量注いでから弱火にかける。

時折、掻き回す必要があるが、これにはサンザシの枝を使用する。
日が昇ったら火から降ろし、夜になったらまた鍋を火にかける。
こうして丸一週間煮込む。

できあがったらガーゼで漉して、乳香(10g)を足してからカシの木の根元に一か月間埋めておく。
これでできあがりである。

こうして作った軟膏を身体に塗るのであるが、その箇所は大腿の内側、肩のくぼみ、性器の周囲である。
また、飛行道具となるカシのホウキにも塗りつける。
この軟膏は塗ってから10分から一時間後に効果を発揮する。

まず、身体全体に倦怠感が起こり、つぎに浮遊感が襲う。
それからしばらくすると本当に身体が重力を感じなくなるという。

これで飛行できる肉体に変身を遂げたのである。
カシのホウキにまたがり、両足で床を蹴れば身体は空中に浮かび上がる。
あとは自由に行きたい場所に飛んで行けばいい。

最初は不安感にとらわれるかも知れないが、飛行のテクニックはすぐにマスターできる。
ただし、その効果が持続するのは雄鶏が鳴くまでだといわれている。


注意事項
悪魔が魔女となることを志望する人間に、最初にもたらす魔術がこの「魔女の軟膏」の製造法である。

魔女はこれを身体に塗ることによって、空を飛行できるようになり、数百キロも離れたサバト(Sabbath 魔女の夜会)会場にも参加が可能になる。
また動物に変身する際にも使用される。

この軟膏には各種の薬草のほか、気持ちの悪いものがいろいろと含まれている。
こうした通常の神経を持った人間には耐えられないようなものを使用する理由のひとつは、薬草の成分を凝固させる役目があるが、
それ以上に悪魔にとって大切なのは、こうした命令によって魔女の服従心をテストするのである。

史上最も無気味な「魔女の軟膏」を作った人物に、フランスのジル・ド・レ(Gilles de Rais)がいる。

彼は百年戦争の際、ジャンヌ・ダルク(Jeanne d'Arc)を助けて「オルレアンの解放」(Siege of Orleans)に功績し、シャルル7世(Charles VI)から元帥の称号を受けた人物である。
後年、魔術に傾倒して子供たちを二年間に500人あまりも殺している。

被害者の目玉や手足はばらばらにされて悪魔への貢物となり、骨は細かく砕かれて「軟膏」の主材料になったという。
軟膏には以上のように、実にさまざまなものが使用される。

しかし、その主成分たる薬草は各種アルカロイドを含み、合理的に配合されたものであるという分析がなされている。
アルカロイドとは植物中に含まれる塩基性化合物のことで、特殊な生理作用を持ち医薬品として使われるものも少なくない。

西ドイツの精神病理学者H・ロイナ一(Hanscarl Leuner)教授は軟膏の成分を分析して、そこに含まれるアルカロイドを5種類に分けた。

それはベラドンナから抽出されるアトロピン(atropine)、ヒヨスのヒヨスキアミン(hyoscyamine)トリカブトのアコニチン(aconitine)、
チョウセンアサガオのスコポラミン(scopolamine)、オランダ・パセリのアフロディシアクム(aphrodisiacum)である。
いずれも強い生理作用を人体に及ぼす。

上記のアルカロイドを身体に塗った実験によれば、まず疲労感と陶酔感があり、ついで深い昏睡状態に陥ったという。
さらに睡眠中に飛行体験、極度の性的興奮をともなった夢を見るケースが多いという。
これはあくまでも科学的実験によるデータである。

性器周辺に塗るというのは、粘膜など吸収しやすいところだからだろう。
自らは魔女であり、ホウキにのり飛行を終えてきた、と証言する魔女に、実際に目の前で空を飛ばせて見て検証した記録が中世に残っている。

教会の人間の前で体に軟膏を塗りたくったその女は眠り込んでしまい、再び目が覚めたときには「今まで空を飛んでいた」と証言したという。

(ギリシア神話事典より)

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