3月22日 マイ・プロフィール (2) 幼稚園のころ |
めざまし時計なんか必要なかった。
毎朝、きまって聞こえる牛乳屋さんのカタカタという自転車の音、いそぎ足の新聞配達の少年の足音。
こんな朝の音たちを聞きながら、ウツラウツラと、すこしずつ目をさましていく。
「トントントン...」
母親がまな板で朝食をつくる音がする。みそ汁のダイコンをきざむ包丁の音だ。
火鉢の上にかけられたヤカンのお湯のチンチンわく音もかすかに聞こえている。
いったい、母親はいつの間に寝て、いつ起きていたのか。
目を覚まして台所へ行くといつも白い割烹着を着て、温かい鍋の湯気のむこうで朝のしたくをしていた。
こうした朝の暮らしの物音のひとつひとつが、いまでもなつかしい。
卓袱台(ちゃぶだい)のまわりを家族がグルリと囲み、一緒にあわただしく朝の食事をする。
献立は、白くて炊きたてのアツアツご飯に生卵、納豆、のりの佃煮、そしてみそ汁だった。
八時ごろ、幼稚園の保母の先生が家まで迎えに来てくれた。30人くらいのクラスで、集団登校していた。
出がけに、母親がお昼のお弁当をもたせてくれた。
教室の真ん中に石炭ストーブ(だるまストーブ)があって、お昼近くになると、みんなで暖をとりながら、ストーブの上の網のカゴに弁当箱をのせて暖めていた。
食事の時間になると、ヨットの絵が入った楕円形のアルマイト製弁当箱が熱々になっていた。
ごはんの上にノリがはってあって、たまご焼きつきの母の弁当はとくにおいしかった。