「これはただのリンゴじゃない。願いがかなうリンゴなのさ」
「願いが?」「そうさ」
魔女は白雪姫のほうに身を乗り出すと、まるでないしょ話でもするときのような口ぶりで言いました。
「ひとくちかじれば、どんな望みもかなうのさ」
「本当?」「本当だとも」
魔女は白雪姫の手を取ると、その柔らかな手に真っ赤な血の色をしたリンゴを握らせて言いました。
「何か願いごとをして、ひとくちかじってごらん」
じっとリンゴを見つめたまま、どうすればいいのかわからずにいる白雪姫に向かって、魔女は作り笑いを浮かべました。
「その小さな胸には、願いごとがあるはずだよ。誰か好きな人はいないのかい」
その言葉に、白雪姫は頬を赤くしました。
「ええ。実はおりますの」
「そうだろうとも。わかっているのさ。若い子の気持ちは」
魔女は何度もうなずくと、白雪姫の耳元でささやくように言ったのです。
「さあ、リンゴを手に取って、願いをかけるのさ」
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白雪姫は、グリム兄弟(Brothers Grimm)の「グリム童話集」(Grimms' Fairy Tales)に採録されたドイツ民話。
継母に殺されそうになり、森の7人の小人に救われた白雪姫は結局毒りんごを食べて死ぬが、やがて王子の出現で蘇生する。
白雪姫と王子の婚礼に招かれた継母は、罰として火で焼かれた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊り続けさせられた。
魔女狩りが盛んであった時代のヨーローパでは、魔女は人肉を喰らうと信じられていた。
不思議な鏡を操り、白雪姫の殺害を企てた継母は、明らかに魔女と考えられていた。
「継母=魔女=悪の権化」のイメージと対照的な「白雪姫=純潔=正義の女神」のイメージが付与され、
魔女が厳しい火刑に処されるのは、正義による悪の駆逐、勝利を物語っているのである。
(ギリシア神話事典)
この絵のイメージは Star Seal のご好意により使用させていただいています。
白雪姫