しばらく行くと、トランプの職人(しょくにん)が、白いバラの花を、赤いペンキでぬっていました。
アリスはわけをたずねてみます。
「ハートの女王さまは白いバラが嫌いです。まもなくここを通るので、見つかったら、わたしたちは首をはねられます」
「まあ、ひどい女王さまね」
そのとき、高らかにファンファーレが鳴りひびき、女王の隊列がやってきました。
トランプの職人たちは、いっせいにじめんにひれふします。
「女王陛下(へいか)のお出まし〜!」 先頭でラッパを吹いていたのは、なんとあの白ウサギでした。
「あら、白ウサギさん、やっと見つけたわ」 白ウサギのところへかけよったアリス。
ポケットから、白ウサギの手袋と扇子(せんす)をとり出して手渡します。
白ウサギは、ちぢみあがってささやきます。
「しぃっ〜おしずかに! 女王さまのお通りですぞ! はやくひれふしなさい」
あわてて、じめんにはいつくばるアリス。ひれふしながらチラリと女王さまを見た。
でっぷり太って、みるからに性格がわるそうなハートの女王。
そのかたわらには、ちっちゃくて、人のよさそうなハートの王さまが並んでいました。
女王は、ぬり残した白いバラを見つけて、かんかんにおこりました。
そしてめざとくアリスを見つけてたずねます。「そこの子供、名前は何と申す?」
「私はアリスと言います。女王さま」 アリスは礼儀(れいぎ)正しく答えます。
「よろしい! ではアリス、この剣を使って、彼らの首をはねなさい!」
トランプの職人たちはそれを聞いてびっくり、震(ふる)えだすやら、泣き出すやら。
アリスは彼らを林の茂みの中に連れていって、かくすと、剣に、血のように赤いペンキをいっぱい塗りました。
「彼らの首ははねたか?」 女王が叫びました。
「はい、女王さま。ご命令のとおり、彼らの首をはねました!」 アリスは大声で答えます。
「それはけっこう!」 女王は満足(まんぞく)そうに言いました。