10月21日  マンドラゴラ (Mandragora Officinarum)  
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ジャンヌ・ダルク
を告発したパリ大学の神学者によれば、彼女は常に、マンドラゴラを身につけていて、その神秘的な力は、すべてこの植物から授かったものであるという。

彼女が宗教裁判により異端の宣告を受け、やがて火刑に処せられた時の、裁判所側の告発状には、次のように書かれた箇所がある。

「ジャンヌは、しばしば乳房のあいだにマンドラゴラを隠しもって世俗的な富を手に入れんと望んだ。
彼女はこの植物に、このような効能があることを断言してはばからなかった」

要するに、ジャンヌはマンドラゴラの魔力を用いて善良な民衆をまどわし、イギリス軍を苦しめた憎むべき女妖術使にほかならない、という結論である。

マンドラゴラは、ナス科の多年草で、ふたまたにわかれた根の形が人間の下半身に似ていることから、多くの伝説が生まれた有毒植物である。
古代人の催眠飲料、催淫剤として古くから重要な役割を果たし、ペルシャからギリシア、地中海へと伝わった。

旧約聖書には、「恋なすび」という名称が使われており、不妊の女に飲ませると子供が授かるという説が古くからある。
「創世記」に登場する美人で石女のラケル(Rachel)が、その姉レア(Leah)の子沢山を羨み、夫を貸す代償として、マンドラゴラを借り、ヨセフ(Joseph)を産む話がある。
(創世記 第30章14-24節)

また、この植物は、無実の罪で処刑された犠牲者の断末魔の射精から生じると一般に信じられ、キリストが息を引き取る瞬間に精液を漏らした際、これが土中にしみ込んでマンドラゴラが生まれたという話は、グリム兄弟の「ドイツの伝説」(Deutsche Sagen 1865) に見られる。

この草がひきぬかれたときにあげる大きな悲鳴を聞いた人間は発狂し、ひきぬいた当人は死ぬといわれ、犬をひもでつないでひきぬかなければならないという。

「毒薬の手帖、エロスの解剖」(渋澤龍彦)