11月 19 日 錬金術 (Alchemy)
錬金術は、科学の前段階ともいえる疑似科学の要素が強く、魔術的要素も大きいことから中世ヨーロッパにおいて大流行した。
錬金術の当初の目的は、文字通り卑金属(酸化されやすい金属。貴金属の反対語)から「金」を作りだすことにあり、
水銀や硫黄が重要な役割を占めていた。
金は変質しない金属で、古代よりその価値を認められてきた。
それゆえ、権力の象徴であり、いつの時代でも人々はその美しさに魅せられてきた。
当時の諸侯や王族は、錬金術師に援助して、金の製造を研究させたという。
12−13世紀に入ると、キリスト教会に属する有能な聖職者たちが次々と錬金術に傾倒していった。
ロジャー・ベーコン(Roger Bacon)、アルベルトゥス・マグヌス(Albertus Magnus)たちである。
彼らが、金の合成に挑戦したのは、現世的利益を追求するばかりでなく、金というものが宇宙における完璧さを象徴しているからである。
ちなみに卑金属を金に変える力を持つ物質を、「賢者の石」(Elixir)と称した。
中世後期の15世紀頃から、卑金属から貴金属、とくに金を作り出す試みである錬金術は、そのまま「不完全な人間(有限)」を
「完全(無限)」のものとする「秘儀」の発見につながると考えられるようになった。
すなわち、人間の「知恵」と「精神」の力によって、肉体の「束縛」を破り「不老不死の実現」を目的とする体系へと発展したのである。
特に高等な錬金術師は、霊魂の錬金術を行い、「完全なる知」(Gnosis グノーシス)を得ることにより、神と一体化すると考えられた。
この段階にいたった人間は、生きながらにして救われており、最後の審判で裁かれる必要すらなかった。
錬金術は一種の宗教や神秘思想に変質を遂げていったのである。