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ヘラクレスHerakles/ハーキュリース(Hercules)
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「ヘラの栄光」の意。
ゼウスがアルクメネ(ミュケナイ王エレクトリュオン Elektryon の娘)と、彼女の夫アムフィトリュオン(Amphitryon)の
留守中にその姿をかりて交わってもうけた子。

ヘラクレスが赤子のとき、アルクメネに嫉妬したヘラは、ゆりかごで寝ていたヘラクレスに二匹の毒蛇を送り込んだ。
ところがヘラクレスは、その蛇を両手であっさりと絞め殺してしまう。

その非凡さから、ヘラクレスが神の子であると気づいたアムフィトリュオンは、彼に大勢の教師をつけ、武術や戦術を学ばせる。

ヘルメスから剣、アポロンから弓矢、ヘファイストスから黄金の胸あて、アテナから長衣(ペプロス Peplos)を贈られた。
また、アウトリュコス(Autolykos ヘルメスの子)には相撲を、エウリュトス(Eurytos オイカリア王 Oichalia)に弓術を、
カストル(Kastor ゼウスの子)に武器の使い方を、そしてリノス(Linos アポロンの子)から竪琴を習った。

たくましく成長したヘラクレスは、当時オルコメノス国(Orchomenos)に隷属していたテバイの民を率い、
オルコメノス軍と戦い、これを打ち負かす。
この功績により、テバイ王クレオン(Kreon)から娘メガラ(Megara)を与えられ、テリマコス(Therimachos)、
クレオンティアデス(Kreontiades)、デイコオン(Deikoon)を儲ける。

しかし、執拗なヘラの嫉妬により気を狂わされ、我が子を炎に投げ込んで殺してしまい、これを悲しんだ妻メガラも自殺した。
ヘラクレスは、息子たちを殺してしまった罪を感じて自らを追放する。
デルフォイに着いた際、自分はどこへ行くべきかを神託に問う。
そのときに初めて巫女から「ヘラクレス」と呼ばれ、また、ティリュンス(Tiryns)のエウリュステウス王(Eurystheus)
が命じる課題をすべて終えたときに罪が贖われると告げられる。 

しかし、臆病者のエウリュステウス王は英雄であるヘラクレスを恐れており、難行にかこつけてヘラクレスを殺してしまおうと考えていた。

そこでまず彼に命じたのが、ネメアの森に住む「獅子」を退治せよというものだった。

1.ネメア(Nemea)の獅子退治。
ネメアの獅子は刃物を通さない皮を持っていたが、ヘラクレスは棍棒で殴って悶絶させ、絞め殺した。
この獅子は後にしし座となった。
以後、彼は殺した獅子の皮を頭からかぶり、よろいとして用いた。

2.レルネ(Lerne)のヒュドラ退治。
甥のイオラオス(Iolaos)と共に戦車を駆り、アルゴス近くのレルネの野、アミュモネ(Amymone)の泉にいた水蛇ヒュドラを火で閉じこめる。
棍棒で頭を打ったが、一つの頭を打つと、そこから二つの頭が生えてくるため、イオラオスに怪物の頭の付け根を焼かせてから倒した。
そしてヒュドラはうみへび座となった。
しかし、これは独力で倒したのではないことから、エウリュステウスには数のうちに入れてもらえなかった。
なお、ヒュドラは猛毒を持っていて、ヘラクレスはこの毒を矢に塗って使うようになった。

 
3.ケリュネイア(Keryneia)の鹿の生け捕り。
ケリュネイアの鹿は女神アルテミスの聖獣で黄金の角と青銅のひづめを持っていた。
四頭の兄弟がおり、アルテミスに生け捕られ、彼女の戦車を引いていたが、この五頭目の鹿は狩猟の女神をもってしても捕らえる事ができないほどの脚の速さを誇った。
女神から傷つけることを禁じられたため、ヘラクレスは一年間追い回した末に鹿を生け捕りにした。 
その後この鹿はアルテミスに捧げられ、他の四頭とともに戦車を牽くこととなった。

4.エリュマントス(Erymanthos)の猪狩り。
エリュマントス山に住む人食いの怪物、大猪を生け捕りにした。
このとき、ヘラクレスはケンタウロスに助力を求めていた。

ところがケンタウロス一族の共有していた酒を、ヘラクレスが無理矢理奪って飲んでしまい、駆けつけたケンタウロス達と喧嘩になってしまう。
そして逃げるケンタウロス達を追いかけ、もっていた弓矢で矢を射かけてしまう。
ところがそれが事もあろうに賢人ケイロンの腕に刺さってしまった。
その矢にはどんな薬でも直せないヒュドラ猛毒が塗ってあったのでさしものケイロンも苦しみ喘ぎ死んでしまった。
この後、ケイロンの死を惜しんだゼウスは、彼をいて座にしたという。

5.アウゲイアス(Augeias)の家畜小屋掃除。
エリス王(Elis)アウゲイアスは3000頭の牛を持ち、その牛小屋は30年間掃除されたことがなかった。
ヘラクレスはアウゲイアスに「一日で掃除したら、牛の十分の一をもらう」という条件を持ちかけ、アウゲイアスは承知した。
ヘラクレスはアルフェイオス河(Alpheios)とペネイオス河(Peneios)のニつの川の流れを強引に変え、小屋に引き込んで30年分の汚物をいっぺんに洗い流した。
しかし、おかげでこの河の流れは狂ってしまい、たびたび洪水を引き起こすようになったという。
エウリュステウスは、罪滅ぼしに報酬を要求したとして、これをノーカウントにしたため、さらに難行が一つ増えることとなった。

6.ステュムファロス(Stymphalos)の鳥退治。
ステュムファロスの鳥は、翼、爪、くちばしが青銅でできていた。
ヘラクレスはこの恐るべき怪鳥どもを驚かせて飛び立たせるため、ヘファイストスからとてつもなく大きな音を立てる
青銅のガラガラ(Brazen Castanets 工房のキュクロプス達の目覚まし用)を借り受け、音に驚いた鳥が飛び立ったところをヒュドラの毒矢で射落とした。

7.クレタ島の雄牛の捕獲。
ミノスが王位に就く際、海神ポセイドンから与えられた、巨大で美しい雄牛。
ミノスが、改めてこの雄牛をポセイドンへ捧げるという約束を破ったため、ポセイドンはこの牛を狂わせ、凶暴にした。
ヘラクレスはこの雄牛を殴って捕まえ、エウリステウスに見せてこの難行をクリアした。
 

8.ディオメデス2(Diomedes)の人食い馬の捕獲。
トラキア王(Trakia)ディオメデス2は、旅人を捕らえては四頭の人食い馬に食わせていた。
ヘラクレスは王に、馬を見せて欲しいと頼んだ。
そして、暴れる人食い馬の近くまで行くと、ディオメデス王を殺して馬に食べさせ、満足して大人しくなった所を捕獲した。
 

9.ヒッポリュテ(Hippolyte)の帯入手。
アマゾン族の女王ヒッポリュテは、戦いの神アレスの末裔だった。
ヘラクレスが帯を必要としている事情を説明すると、ヒッポリュテは帯を与える事を約束した。
しかし、ヘラクレスを憎むヘラの謀略で、ヘラクレスがヒッポリュテを狙っていると誤解。
武器を手にヘラクレスの元へ集ったアマゾン族たちは、逆に謀られたと誤解したヘラクレスに討たれてしまう。
ヘラクレスは、ヒッポリュテを殺して帯を手にした。

10.ゲリュオン(Geryon)の牛捕獲。
ゲリュオンは、ゴルゴンのメドゥーサがペルセウスに首を切られたとき、その傷口より出生したクリュサオル(Chrysaor)が、
オケアノスの娘カリロエ(Kallirrhoe)と交わってもうけた子で、腰から上が三つに分れていた。
世界の西のはての海上に浮ぶエリュテイア島(Erytheia)に住み、牛の大群を所有し、それを猛犬オルトス(Orthrus)と
エウリュティオン(Eurytion)という名の牛飼いに番をさせていた。
ヘラクレスはオルトスや牛飼いを棍棒で打ち殺し牛の群れを奪った。
さらに牛を奪い返さんと追ってきたゲリュオンを射殺した。

11.ヘスペリデス(Hesperides)の黄金のリンゴ入手。
ヘスペリデス(夕べの娘たちの意)は、ヘシオドスによれば、ニュクスの娘だが、アトラスの娘とする説もあった。
彼女たちは美声をもち、世界の西のはてにある楽園で、百の頭を持つ竜のラドンとともに黄金のりんごのなる樹の番をしていた。
この樹は、ガイアがヘラのために、ゼウスとの婚礼を祝って生え出させたものという。

ヘラクレスはヘスペリデスの園を探して方々を駆け回り、最終的にはヘスペリデスの父とされるアトラスに助力を頼んだ。
アトラスはヘスペリデスの園に黄金のリンゴを取りにいった。
その間、ヘラクレスが天を支えていた。
しかし、戻ってきたアトラスは再び天を支えるのがいやで、自分がエウリュステウスのもとにリンゴをとどけると言った。
ヘラクレスは一計を案じ、頭に円座を装着してから天空を支えたいので少しの間天空を持っていてほしいと頼んだ。
承知したアトラスが天空を担いだところでヘラクレスはリンゴを取って立ち去った。

12.冥界の番犬ケルベロスの捕獲。
ケルベロスは冥界の門の番犬で、三つの頭と、蛇の尾を持つ巨大な魔物だった。
女神アテナの導きで、ヘラクレスは冥界の神ハデスの元へ辿り着く。
ハデスが「素手でケルベロスを捕まえられれば、貸してやる」と言った為、ヘラクレスはその言葉のままに素手でケルベロスを捕まえた。
その後、エウリュステウスにケルベロスを見せ、ヘラクレスの十の難行(十二の難行中、不可ニつ)を終える事ができた。
なお、エウリュステウスに見せた後、ケルベロスを冥界に戻した。

難行を達成後、ヘラクレスはカリュドン(Kalydon)の王女デイアネイラ(Deianeira)と再婚した。
ある時ヘラクレスとデイアネイラが旅をしていたとき、エウエノス河(Euenos)に差し掛かった。
ここではケンタウロスのネッソス(Nessos)が渡し守をしていた。
ヘラクレスはネッソスに妻を運んでくれるように頼み、自分は自力で河を渡った。

ところが先に対岸に着いたネッソスは、デイアネイラに暴行を働こうとした。
妻の悲鳴を聞いたヘラクレスは、ヒュドラの毒を塗った矢をネッソスに向けて放つ。
矢を受けて倒れたネッソスは、虫の息でデイアネイラにささやく。
「私の血をとって置けば、夫の愛が薄れたときに媚薬として使えるぞ」
ディアネイラはこれを信じ、夫に内緒で血を集めておいた。

時は過ぎ、二人の間には四人の息子が生まれていた。
そんな中でヘラクレスはオイカリア(Oichalia)に遠征に出かけ、王を殺して王女イオレ(Iole)を捕虜として連れ帰った。
その知らせを聞いたデイアネイラは、ヘラクレスがイオレを新たな妻に迎えるつもりだと確信する。
そこで取って置いたネッソスの血を染み込ませた布を、戦勝祝いの儀式用の衣装に縫いこんでヘラクレスに着せた。

その途端、ヒュドラの毒を含んだネッソスの血が、ヘラクレスの全身を侵した。
衣装を剥ぎ取ろうとしても、布は肌に張り付いて離れない。苦しみにのた打ち回る夫を見たデイアネイラは、自分の間違いを知って自殺してしまう。
ヘラクレスは、羊の群を探して通りかかったフィロクテテス(Philoktetes)に、自分の身体をトラキアのオイテ山(Oite)に運ばせ、薪を積み上げてその上に火をつけるよう命じた。

炎によってヘラクレスの人間としての肉体は燃え尽きたが、ゼウスから受け継いだ神の部分はアテナの案内で天界へと運ばれた。
ヘラも今までの功績からヘラクレスに対する怒りを消し、愛娘である青春の女神ヘベを妻にすることを許した。
神の一員として迎えられたヘラクレスは、以後人びとの信仰を集めることになった。

(エウリピデス Euripides 『ヘラクレス Herakles』)(The Encyclopedia Mythica)