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イアソンIason
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イオルコス王(Iolkos)アイソン(Aison)とポリュメデ(Polymede ヘルメスの子アウトリュコス Autolykos の娘)の子。
アルゴ号の遠征を主宰した英雄。
イオルコスの王子だったイアソンだが、父王は異父兄弟のペリアス(Pelias)に王位を奪われてしまう。
ケンタウロス族の賢人ケイロン(Cheiron)に養育され、成長した彼は、王位を返してもらうために伯父ペリアスの元を訪れる。
ペリアスは王位を譲る条件として、はるか東、黒海の奥にある国コルキス(Kolchis)から、黄金の羊毛皮(Golden Fleece)を取って来いと命じる。
黄金の羊毛皮とはその昔、イアソンたちの祖先フリクソス(Phrixos)を、イオルコスからコルキスへと運んだ
空飛ぶ黄金の羊の毛皮のことで、おひつじ座の由来でもあった。(→ おひつじ座の伝説)
まずイアソンは、一緒に旅をする有志を募った。
集まったのは英雄ヘラクレス、竪琴の名手オルフェウス、名医アスクレピオス(Asklepios)など、
そうそうたるメンバーだった。
そして船大工のアルゴス2 に船の建造を依頼する。
こうして出来た船はアルゴ号(Argo)と名づけられ、英雄たちを冒険の旅へ送り出す。
なお、アルゴ号乗組員はアルゴナウタイ(Argonautai)と呼ばれ、計50人といわれる。
アルゴ号の航路と内容は、
@ イオルコス(Iolkos)→レムノス島(Lemnos)
イオルコスの港パガサイ(Pagasai)から船出したアルゴ号の一行が、まずたどり着いたのはレムノス島であった。
島民は何故か女だけだった。
この島の女たちは以前、愛の女神アフロディテを敬わなかったため女神に呪いをかけられた。
島の男はことごとく女奴隷に心を移し、それに怒った女たちが男を皆殺しにしてしまったのである。
女たちはイアソン一行を歓待し、彼らも喜んでそれに応えた。
だが女に溺れる日々を送る彼らに、ある時ヘラクレスが自分たちの使命を思い出させる。
一行は恥じて、女たちが引き止めるのを振り切り出立した。
A →キュジコス島(Cyzikos)
キュジコス王が支配する小アジアのキュジコス島に立ち寄り歓待された。
夜になって出航したところ逆風にあって再びキュジコスに戻されてしまう。
だが、住民から海賊の来襲と間違えられて戦闘になり、誤ってキュジコス王を殺してしまう。
夜が明けてこの事実を知ったアルゴ号の英雄は嘆いて髪の毛を切り(大きな嘆きを表す風習)王の死を深く悼んだ。
B →ミュシア(Mysia)
ふたたび出立した一行は、ミュシアに到着し、清水を求めて上陸した。
アルゴ船遠征に参加したヘラクレスは、ヒュラス(Hylas)という美少年を愛していた。
遠征に参加するにあたっても、わざわざヒュラスを同行させるほどだった。
ヒュラスは、ドリュオプス人(Dryops)の国の王子だった。
雄牛を巡ってヒュラスの父王を殺してしまったヘラクレスは、その後、彼を引き取り、自分のそばに置いたのである。
ヘラクレスは、折れた櫂(かい)の代わりになる木を探し、ヒュラスは飲み水になる真水を探して森の中に入っていった。
ヒュラスが泉を見つけて水を汲もうとしたところ、その愛らしい容貌に一目ぼれした水のニンフ(Nymphe)たちが、
いきなりヒュラスを水の中に引きずり込んでしまった。
ヒュラスの叫び声を聞きつけたポリュフェモス2(Polyphemos)は、盗賊だと思って刀を抜き、声のする方角に駆け付けた。
だが、どこにもヒュラスの姿は見えなかった。
これを聞いたヘラクレスは、大いに嘆き悲しみ、二人で森や野原にヒュラスを探し求めた。
イアソンは、辛抱強く二人を待ったが、ついに仲間たちに説きつけられて、二人を残したまま出航することになった。
C →ビテュニア(Bithynia)のベブリュクス人(Bebrycians)の国
この国の王はアミュコス(Amykos)といい、この地に立ち寄る男に強いて「拳闘」を行い殴り殺していた。
その王の挑戦を受けてポリュデウケス(Polydeukes スパルタ王テュンダレオス Tyndareos の子)が受けて立ち、逆に王を撃ち倒す。
D →トラキア(Thrakia)のサルミュデソス国(Salmydessos)
つぎに船が到着したのは、黒海の入り口に近いトラキアのサルミュデソス国の岸辺であった。
盲目の予言者フィネウス(Phineus) が暮らす岸辺には、女の頭と鳥の身体を持つ怪物ハルピュイア(Harpyia)たちが住み着き、
食べ物を食い散らかして悪臭を振りまいていた。
ハルピュイアに苦しんでいたフィネウスは、ある夜夢を見た。
それは間もなくやってくるイアソン一行が、怪物たちを追い払ってくれるというものだった。
フィネウスが岸辺に行ってみると、夢のとおり船が停泊している。
一行はフィネウスの訴える窮状に同情し、その中でカライス(Kalais)とゼテス(Zetes)の双子(「北風」の神ボレアス Boreas の子)
がハルピュイア退治に名乗り出た。
彼らが食卓を広げると、早速ハルピュイアたちが飛んで来て、食べ物を食い散らかしていった。
だが、北風の神の息子たちで足に翼を持つ双子は、剣を抜くと逃げるハルピュイアを追いかけた。
ハルピュイアに追いつき、切りかかろうとしたその時、ゼウスの命により虹の女神イリス(Iris)が双子の前に表れた。
そして、もう彼女たちがフィネウスを苦しめることはないから、剣をおさめよと命じる。
双子が帰ってこのことを告げると、フィネウスは喜び、イアソンたちにこれから先の難所を切り抜ける方法を教えた。
一行はフィネウスに礼をのべ、コルキス目指して出航した。
E →ボスポラス海峡(Bosporus)のシュムプレガデス(Symplegades)
フィネウスはアルゴ号の一行にこれからの道を教え、大岩が漂ってぶつかり合い船の航行ができない海峡について教示した。
それは海上に突き出たニつの峻険な岩の島で、それらの島は海底に固定することなく海上に浮かんでおり、
しばしば激しい勢いで打ち合わさっては通り抜けようとするものをこなごなに打ち砕いてしまうというのだ。
ここは深い霧がかかっており鳥でも抜けられないとされていた。
フィネウスはここで一羽の鳩を放ち、もしその鳩が無事通り抜けたならそこに船を入れてよいが駄目だったらあきらめろと教えた。
シュムプレガデスがアルゴ号の目前に迫った時、エウフェモス(Euphemos ポセイドンの子)は抱えていた鳩を岩と岩の隙間に飛ばした。
すると、通過しようとする鳩を捕まえようとするように ニつの岩は轟音を発して閉じた。
しかし、鳩は尾羽根の先をはさみ取られただけで、ものの見事にニつの島の真ん中を飛び抜けた。
これを見た英雄たちは、閉じていた岩が開き始めた瞬間に、鳩と同じスピードで船を漕いだのである。
その結果、アルゴ号は船尾の一部分を岩にはさまれただけで、恐るべきシュムレガデスを通過することができたのだった。
それ以来、定めによってこの岩は動かなくなった。
F → コルキス(Kolchis)
いよいよコルキスに到着したイアソンは、国王アイエテス(Aietes)に直訴に行く。
アイエテス王は残忍な男で、羊毛皮を渡す条件として彼らに難題を突きつけた。
自分が飼っている、青銅の脚を持ち火を吐く二頭の雄牛で大地を耕し、さらに竜の牙をまいて、そこから生まれてくる戦士を倒せというのだ。
その様子を見ていた女神ヘラは、イアソンを助けるためアフロディテに協力を求める。
アフロディテは息子のエロスに命じて、王の娘で魔術に長けたメディア(Medeia)が、イアソンに恋するよう仕向けた。
メディアは自分の感情に戸惑い、苦悩する。
そこへ、彼女の噂を聞いたイアソンがやって来て、力を貸して欲しいと懇願した。
恋心に負けたメディアは彼に、一日だけどんな害からも身を守る薬草と助言を与える。
翌日、イアソンの前に雄牛が引き出された。
だがメディアの薬草が効いて、雄牛の吐く火にも傷一つつかぬまま、イアソンは雄牛を服従させて大地を耕すことができた。
次に竜の牙を大地にまくと、地面から槍を持った戦士たちが生まれてきた。
イアソンがメディアの助言のとおり、石を彼らの真ん中に投げて、自分は大きな盾の後ろに隠れると、
戦士たちはお互いをののしり、同士討ちを始めた。
だいぶ数が減ったところでイアソンは飛び出し、残った戦士を倒してしまった。
最初から羊毛皮を渡す気などないアイエテスは、王宮に戻り次の策略を練った。
それを察知したメディアは、夜中にこっそりイアソンを訪ね、これから羊毛皮の所に案内するから、
その代わりに自分を妻にしてイオルコスに連れて行って欲しいと頼む。
メディアの案内でイアソンは、羊毛皮がかかっている樫の木までやって来た。
木の根元には番人として竜がいたが、メディアが魔術で竜を眠らせた隙に、羊毛皮を手に入れることが出来た。
G → 黒海横断 → イオルコス帰還
イアソンはただちにアルゴ号を出航させたが、宝物が盗まれ、わが子もいなくなったことを知ったアイエテスは、追っ手の船団を差し向けた。
アルゴ号にイアソンとともに乗り込んでいたメディアは、一緒に連れてきていた幼い弟アプシュルトス(Apsyrtos)を殺し、
その亡骸を切り刻んで海にばらまいた。
追っ手の船団がアプシュルトスの体を拾い集めている間に、アルゴ号はは追っ手を振り切り、再び数々の難所を抜けて、
無事イオルコスに帰ることが出来た。
H 宿敵ペリアス打倒
だがイアソンを見たペリアスは、王位を譲る約束など知らないとしらを切る。
そこでメディアは一計を案じた。ペリアスの三人の娘の前で、老いたヤギの喉を切り裂き、秘薬を煮込んだ鍋の中に入れフタをした。
そしてフタを取ってみると、鍋からは生まれたての仔ヤギが飛び出してきた。
娘たちは驚き、ぜひ父を若返らせたいから秘薬を分けてくれと頼む。
そこでメディアは、秘薬と偽り別な液体を娘たちに渡した。
だまされた娘たちは、父の喉を切り裂き、煮立った鍋に放り込んで殺してしまった。
I メディアとの別れ
ペリアスを残酷な手段で殺したことで、イアソンとメディアは、ペリアスの子アカストス(Akastos)によってイオルコスを追われる。
二人はコリントスに逃れ、そこで暮らし始める。
しかし、コリントス王クレオン(Creon)がイアソンを気に入り、娘グラウケ(Glauke)の婿にと望む。
イアソンが乗り気であることを知ったメディアは、呪いをかけた衣装を王女グラウケに贈る。
王女がそれを着た途端、炎が彼女の全身を包み、助けようとした王ともども焼き殺してしまう。
更にメディアは、イアソンとの間に生まれた二人の息子も殺し、愕然とする彼を置いて、太陽神ヘリオスから送られて来た馬車でアテネに逃れ、
後にアテネ王アイゲウス(Aigeus)に嫁いでメドス(Medos)を産んだ。
イアソンは失意のうちにアルゴ号の傍らで休んで居たとき、朽ちた船首が落ちてきて下敷きとなって死んだと言われる。
アポロニオス「アルゴ船遠征譚」(Argonautika by Apollonius of Rhodes)(アポロドロス 第一巻 8-2,9-16-28)
(Dictionary of Greek and Roman Biography and Mythology by William Smith)