愛怨峡 (あいえんきょう) 1937年(昭和12年) 邦画名作選 |
信州のある老舗の旅館。
その若主人・謙吉(清水将夫)は、子を孕ませた女中のおふみ(山路ふみ子)と、
手に手をとって東京へ出奔する。
友人の広瀬(田中春男)の下宿に居候したものの、遂にはいやな顔をされ、
その上父母に迎えに来られ、五十円の手切金を置いて、逃げ帰ってしまう。
おふみは、同じ下宿のアコーディオン弾きの芳太郎(河津清三郎)と知り合う。
彼の親切で、子を産み、里子に出して必死に働いた。
だがあるとき、芳太郎が諍い事で刑務所へ連れていかれてしまう。
おふみは生活苦から安カフェの女給にまで身を落とす。
ようやく芳太郎が出所すると、二人は旅回りの一座に加わり、水草のような旅を続ける。
たまたま昔の町に巡業して、おふみは謙吉と再会する。謙吉は、おふみに詫びて復縁を
迫るのだが、彼女は彼を笑い飛ばし、貧しい芸人の愛人と旅を続けるのであった。
溝口健二の作品には、男らしい男というものが殆ど登場しない。
男たちは全て、ヒロインにとって頼り甲斐の無い、情けない存在である。
はじめヒロインは、そんな頼りにならない男たちを励まし、勇気づける。
だが彼らは、窮地に陥ると、あっさり女を裏切って保身を図ろうとする。
ヒロインは、何度も騙され、裏切られるうちに、ついに男を信じなくなり、
うって変わったように、したたかな逞しい女に変貌を遂げるのである。
本作は、女を犠牲にする男に同情することを止め、結局、尽くし甲斐のある
男なんて存在しないのだ、と断じた事において画期的な作品であった。
製作 新興キネマ(東京大泉)
監督 溝口健二 原作 川口松太郎
配役 | 村上ふみ | 山路ふみ子 | 謙吉の母・おしん | 明晴江 | |||||||||
鈴木芳太郎 | 河津清三郎 | おふみの伯父・村上藤兵衛 | 加藤清一 | ||||||||||
旅館の若主人・滝沢謙吉 | 清水将夫 | 謙吉の友人・広瀬恒夫 | 田中春男 | ||||||||||
謙吉の父・安造 | 三桝豊 | その妻・里子 | 野辺かほる |