有りがたうさん   1936年(昭和11年)     邦画名作選
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彼(上原謙)は、伊豆の国道を走る定期バスの運転手。

追い抜いてゆく誰にでも「有難う」と一言声を掛けて走ってゆく。

お巡りさんの自転車にも、のたりと道をふさぐ牛車の爺さんにも、

小学校の子供達の群れにも、彼は常に明るく声を掛けて通り過ぎる。

沿道の人々は、彼のことを「有難うさん」と呼んで親しんでいる。



主演は、前年デビューした上原謙。バスの運転を練習して、実際に運転している。

舗装もされていない道で、バスが本当に崖から落ちそうになってヒヤリとする。

すると、監督の清水宏は、早速それをストーリーに盛り込んだという。


ある停留所で、若い娘とその母親が乗ってきた。二人とも悲しそうな表情をしている。

昭和初期の不況時代、その若い娘は、どうやら生活苦で、身売りされてゆくようだ。

乗り合わせた水商売の女が、運転手に、彼女を身売りから救ってあげるようにと勧める。

だが彼も、車を買って独立したいと思っているから迷ってしまう。


ラスト、身売りされてゆく娘と、運転手は結ばれ、ささやかなハッピーエンディング。

それまで寂しそうにうつむいていた娘が、はじめて笑顔をみせる。

人情こまやかなりし時代と、そこに生きる善良な人々を、心から祝福する映画である。



 
 
 製作   松竹

  監督   清水宏    原作  川端康成

  配役    有りがたうさん 上原謙 髭の紳士 石山隆嗣
      黒襟の女 桑野通子 行商人 仲英之助
      売られゆく娘 築地まゆみ 東京帰りの村人 河村黎吉
      その母親 二葉かほる その娘 忍節子

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