足摺岬 1954年(昭和29年) 邦画名作選
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昭和九年の冬、苦学生の浅井政夫(木村功)は、アカの嫌疑で投獄された。
上京した母のおかげで、釈放され、本郷の下宿に戻った。
隣の部屋の福井少年は、新聞配達をしながら夜学に通っている。
その姉の八重(津島恵子)は、近くの食堂に、住み込みで働いている。
彼女は、毎日ここに来ては、どんぶり飯を食べる政夫を慕っている。
ある日、他の客が焼き魚を一皿残す。そこで八重は、主人に見つからないように
その皿をエプロンで隠すと、飯を食べている政夫のところへそっと持っていく。
食堂の娘のいじらしい愛情であるが、政夫も何時しか八重が心の支えになっていく。
しかし、貧しいものどうし、結ばれるわけもなかった。
ある日界隈に強盗が現われ、八重の弟が警察に引かれていった。
無実と分かったものの、少年の受けた傷は大きく、彼は自殺して抗議を示した。
傷心の八重は一人、故郷の足摺岬へ帰ることになった。政夫が駅まで送っていく。
二人はそこで、目と目を見つめ合い、握手をする。
八重は「一度是非いらして下さい」と云う言葉を政夫に残して帰って行った。
田宮虎彦の「足摺岬」「菊坂」「絵本」の三つの短編を、新藤兼人が一つの物語に脚色。
昭和初期、共産主義者が弾圧され、日本はその後、一気に軍国主義時代に突入していった。
本作は、そんな暗い時代を耐える人々の姿を、深い共感を込めて描き出したものである。
主人公の青年・政夫(木村)は、左翼運動の疑いで検挙され、釈放後も特高の監視を受ける。
さらに結核に冒され、絶望した彼は、自殺するつもりで四国の足摺岬に向かう。
下宿で親しくなった娘・八重(津島)と、一目会ってから死にたいと思ったからである。
結局彼は自殺しきれず、巡礼と旅の薬売りの二人の老人に助けられる。
政夫は、八重に恋を告白するが、彼女はまもなく嫁入りする身だった。
彼は彼女に励まされ、再び生きる勇気を奮い起こして東京へ向かうのだった。
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製作 近代映画協会 配給 北星映画
監督 吉村公三郎 原作 田宮虎彦
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配役 |
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浅井政夫 |
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木村功 |
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松木 |
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信欣三 |
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福井八重 |
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津島恵子 |
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印刷職工 |
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下元勉 |
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福井義治 |
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砂川啓介 |
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遍路爺さん |
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御橋公 |
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さよ子 |
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日高澄子 |
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売薬売り |
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殿山泰司 |
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