爆音 1939年(昭和14年) 邦画名作選 |
村長(小杉勇)の家に、ある夜、一通の電報が届く。
それは陸軍航空隊に入った息子・太郎からの電報だった。
明日、初飛行で「我が家の上空を回る」という知らせである。
翌日は、いいあんばいに晴天だった。
父親の村長は、早速、自転車で友人のところへ双眼鏡を借りに行く。
その途中、村人に会うたびに、今日、息子がこの村の上空を飛行機で
飛ぶんだと、自慢そうに告げるのだった。
やがて予定の時刻となった。
村長をはじめ、村中の人々が空を仰いでいるなか、爆音がとどろいて来た。
すると、村中一斉に、声をかぎりに万歳三唱が始まるのだった。
無名のシナリオ作家・伊藤章三が、NHKのラジオドラマの懸賞に応募、一等に当選した
作品を田坂具隆が映画化したもの。
内容は、陸軍航空中尉になった村長の息子が、村の上空を飛ぶというたわいのない話。
たが本作は、この年のキネマ旬報ベストテンの八位にランクインしている。
それは実は、宝塚の元トップスター・轟夕起子と、神楽坂の現役美人芸者・花柳小菊
の二人が出演しているからだ。
轟(22歳)は、村長の息子の妹、花柳(18歳)は、息子の婚約者という役どころである。
本作が公開された昭和14年は、日中戦争が本格化し、米や生活必需品の配給制など
戦時経済体制が強化された時期であった。
この戦雲濃厚な時代にあっては、当然の事ながら、思想統制も大幅に強化され、
文学をはじめ、映画、演劇、音楽などは、厳重に検閲されるようになった。
映画人たちは「映画も武器である」といわれて、尻を引っ叩かれていた。
映画監督などは、戦争に役立つ映画を、せっせと作らざるを得なかったのである。
その点本作は、陸軍航空隊の飛行機を題材にして、しっかりと軍部に協力している。
ただし、特別に戦意高揚映画というほどではなく、のんびりと穏やかに映画ファンを
楽しませてくれる田園牧歌的な喜劇映画であった。
戦時下という深刻な時期、愛国的なテーマを強調する一方になっていた映画界にあって、
こういった軽妙で遊び心に溢れた作品があったことは記憶されていい。
製作 日活
監督 田坂具隆 原作 伊藤章三
配役 | 村長・吉田良平 | 小杉勇 | 美智子 | 花柳小菊 | |||||||||
妻・キヨ | 吉田一子 | 東京のおぢさん | 鈴木三右衛門 | ||||||||||
娘・房子 | 轟夕起子 | 運転手 | 泉静治 | ||||||||||
息子・三郎 | 片山明彦 | 車掌 | 小杉凡作 |