千春子   1983年(昭和58年)       ドラマ傑作選

直線上に配置





大正元年。金沢のしにせ薬問屋・黒木屋には二人の娘がいた。


姉は、金沢一の美人と言われる千秋(真野あずさ)、良縁の口も多い。

妹は、明るいお茶目な千春子(永光基乃)である。


ある日、路上で四高生・佐伯伊三郎(岸田智史)とすれちがった。

四高生といえば、金沢のエリート、女学生のあこがれの的だ。


ところが赤くなって通り過ぎようとしたとき、思いがけないことが起こった。

伊三郎が千春子のカバンに手紙を押し込んだのだ。





だが喜んだのも束の間、それは姉への手紙であった。ショックを受けたが、

あれこれ考えたあげく、姉の名で返事を書いてしまった。


その頃、姉の千秋には縁談が持ち上がっていた。

相手は、温泉旅館・醍醐屋の息子、政善(片岡秀太郎)であった。


だが千秋は、この縁談をなんとかして破談にしようとたくらむ。

そして見合いの当日に、千春子と組んでひと芝居打つのだった。



大正・昭和初期に金沢・能登で生きた一人の女性の波乱に満ちた半生を描く。

ヒロインの永光基乃(ながみつ きの)は、貝谷バレエ団の現役バレリーナ

ということで、異色のキャスティングとなっている。


脚本の重森孝子女史の娘さんがたまたまバレエを習っており、その関係から

プロデューサーの柳井氏に紹介したのが縁で、今回の大役を射止めたらしい。



ドラマの中で、一人の青年が、島崎藤村の詩に寄せて恋文をしたためる場面がある。

当時の若者は好きな人に宛てて、よく恋文を出していたそうだが、その際

文豪の詩集などは恰好のお手本だったらしい。


その一方、今の時代に「恋文」というのは、彼女から引かれてしまいそうに思える。

いやいや、メールで気軽に送る文章と比べ、かえって「恋文」というのは、

真剣さや想いの深さが感じられるツールではないだろうか。


本作は、そうした恋愛や時代背景を通じて、ヒロインがどう成長していくのかを描き、

視聴者の心に響く感動的な作品となっている。


とはいえ、ライバル番組であるNHK朝ドラの「おしん」が、高視聴率を稼ぎ出して

人気を得たことから、本作は視聴率や話題性などで苦戦を強いられてしまった。


このため、1984年3月、本作「千春子」終了をもって、ポーラテレビ小説は16年間の

歴史の幕を閉じることとなった。



(制作)TBS(脚本)重森孝子(主題歌)岸田智史「夢の淵に」(作詞:来生えつこ、作曲:岸田智史) 

(配役)黒木千春子(永光基乃)黒木千秋(真野あずさ)黒木佐久蔵(菅原謙次)黒木きく(千之赫子)

佐伯伊三郎(岸田智史)醍醐政善(片岡秀太郎)醍醐まさ(木暮実千代)ナレーター(大滝秀治)


直線上に配置