母の恋文 1935年(昭和10年) 邦画名作選 |
高杉良一(小林十九二)には、母に内緒の恋人・夢子(坪内美子)がいる。
妹・八重子(高杉早苗)の手助けで晴れて夫婦となった。
ある夜のこと、会社の遊び仲間たちから、芸者遊びに誘われる良一。
だが妻の夢子に発覚するや大モメとなり、ひたすら平身低頭する良一。
さらに数日後、夢子がアイロンをかけていると、良一のスーツの
ポケットに、簪が入っているのを発見。またもや浮気が発覚。
間の悪いことに、恋文まで見つかってしまった。
あくまで潔白を主張する良一。だが夢子はとうとう家出してしまう。
御馴染み、松竹蒲田が送る、庶民の日常生活をユーモアとペーソスを交えて描く小市民喜劇。
しっかり者の新妻・坪内美子、彼女にメロメロの夫・小林十九二、その妹役でちゃっかり者
の高杉早苗、威厳の無い上司・斉藤達雄などなど。
小市民風情を形成するに当たって、不可欠の面子が勢ぞろいして登場している。
もともと小市民喜劇とは、日活京都のチャンバラ映画に対抗して導入されたコメディ路線の
現代劇であり、主に中産階級の主婦など、女性を中心にした観客をターゲットにしている。
それは例えば、五所平之助の「マダムと女房 1931」小津安二郎の「東京の合唱 1931」
島津保次郎の「隣の八重ちゃん 1934」などに代表される作品である。
これらの作品に登場する女性たちは、皆、賢くしっかり者に描かれているのに対し、
登場する男たちは、全員、頼りなく情けない男ばかりである。
昭和初期はまだ、家父長制度が色濃く残っており、女性は常に一歩下がって男性を支える
という役割を期待されていた。
せめて映画の中だけでも、思う存分男を見下す、といった女性のうっぷんを晴らし、
溜飲を下げるストーリー仕立ての作品が好評を博したのである。
製作 松竹
監督 野村浩将 原作 稲田草人
配役 | 高瀬良一 | 小林十九二 | 山添夢子 | 坪内美子 | |||||||||
母・勇子 | 吉川満子 | 父・進太郎 | 坂本武 | ||||||||||
妹・八重子 | 高杉早苗 | 兄・利一 | 山内光 | ||||||||||
白川喬 | 徳大寺伸 | 課長・古田 | 斎藤達雄 |