白鳥の歌なんか聞えない 1972年(昭和47年) ドラマ傑作選


庄司薫(荒谷公之)は、浪人生だが、大学入試に失敗したわけではない。
今年、高校を卒業したが、東大紛争で入試が中止になり、受験を諦めたのだ。
一方、幼馴染の由美(仁科明子)は、無事女子大学に合格した。
ある日、由美に誘われて、小沢圭子という由美の大学の先輩の家を訪れた。
そこは、コデマリの生垣のある家で、彼女の祖父が所有する立派な図書館があった。
その図書館には、英独仏伊露はおろか、古代ギリシア語やラテン語までもを含む、
世界の国々の言語で書かれた本が並べられている。
しかも飾られているのではなく、すべてに読んだあとがあるのだった。
大書斉の中に、ぎっしり積まれた膨大な書物を、その祖父は全部読んだという。
しかし彼は現在、高齢のため、寝たきりの状態になってしまっている。
東大を目指して勉強を続けている自分からしても、到達できないほどの知識を持つ人物。
だが、膨大な知識を吸収し、様々な学問を修めたというのに、人生の黄昏を迎えたら、
人間の一生の努力なんて虚しさだけが残るのではないだろうか、と薫は思った。
それだけに、人は何のために生きるのか、そして「死とは何か」について考え始めるのだった。
1971年「中央公論社」から出版された芥川賞作家・庄司薫の同名小説のドラマ化。
浪人生活を送る一方、大学で勉強することに疑問を持つ若者の悩みを描いた青春ドラマ。
高校を卒業したものの、まだ次の進路が決まっていない主人公の薫は、あるとき幼馴染の
由美の先輩を通じて、人間の死というものに真正面から向き合うことになる。
勉強して一体何になるのか、人間は何のために生きるのかなど、進路や将来のことに漠然とした
不安を抱えた薫が友人たちと、人生の意味について議論するシーンが見所となっている。
タイトルにある「白鳥の歌」とは、白鳥が死ぬ前に美しい声で鳴くという伝説。
死にゆく白鳥の声に耳をすます、すなわち、死を通じて、いかに生きるべきかを見出す
という意味である。
なお本作は、当時、学習院女子学院在学中だった仁科明子が、NHKスタッフにスカウトされ、
デビューを飾った作品である。
(制作)NHK(原作)庄司薫(脚本)山田正弘
(配役)庄司薫(荒谷公之)下条由美(仁科明子)薫の兄・庄司燦(石立鉄男)小沢圭子(松本留美)
横田(広瀬昌助)小林(東野英心)お手伝い(二木てるみ)
