思い出トランプ(花の名前) 1983年(昭和58年) ドラマ傑作選
常子(浅丘ルリ子)と、夫の松男(杉浦直樹)は結婚25年。
見合いの時、常子は松男が花の名前をまるっきり知らない事を知り、縁談を断りかけた。
面白みのない男だと思ったからだ。
しかし、松男から「結婚したら、花の名前を教えて下さい」と頼まれる。
二人は結局、結婚することになった。
その後は、常子が松男に花の名前や生活の細事をあれこれ教え、松男がそれに感嘆する日々。
常子は、妻としての自分に誇りを持つが、そんな日々に終わりが来た。
ある日、ふいに掛かってきた一本の電話をきっかけに、夫のそばに、つわ子(三好美智子)
という若い女がいることが判明。夫婦の平穏な日常は静かに崩れていくのだった。
1980年「小説新潮」に掲載された向田邦子の短編小説「花の名前」のドラマ化。
本作は、結婚して25年になる夫婦の変わりゆく関係が描かれる。
夫の松男は、理系学問一筋の無粋な男で、妻の常子が日常の細々したことを教えると、
そのつど聞き入り、感謝するようなところがあった。
ところが、流産を機に、二人の間に微妙な空気が流れ始める。
常子のほうは、習慣のように夫にあれこれ教えるのだが、松男は話半分にしか聞いていない。
ある日、常子が電話を取ると、夫の愛人からだった。釈然としないまま、遠回しに夫を責める。
その常子に、松男は「それがどうした」と冷たく切り返した。
夫にとって役に立ついい妻だと自惚れていたのは自分だけだったのか、と常子は悟る。
常子は取り残されたような気持ちで、夫を見つめるのだった。
生真面目一方だった夫が、いつのまにか狡猾で強かな男に変貌してしまう。
これを向田邦子は「女の物差しは、25年たっても変わらないが、男の目盛りは大きくなる」
という印象的な言葉で表現している。
妻にいろいろ教わって、男の世界が広がったというのも確かに真実だが、その一方では
「わずらわしいな」とも思っている。
そんなことなしに気楽に話せるところに行きたい、とも思っている。
何でも知っていて亭主を教育する妻と、知っているのに、何も知りませんと言う不倫相手がいる。
男はその間で揺れる。賢く何でも知っていて男を操縦するような女は、どうも窮屈だ。
その一方、知っているのに知らないふりができる女、作者は、そんな女性を一つの理想としていて、
そんな女性には、男はかなわないというのが、本作のテーマとして、描かれているように思われる。
(制作)NHK(原作)向田邦子(脚本)向田邦子
(配役)常子(浅丘ルリ子)夫・松男(杉浦直樹)バーのママ・つわ子(三好美智子)