張込み 1958年(昭和33年)    邦画名作選
直線上に配置              

警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、
質屋殺しの共犯石井(田村高広)を追って佐賀へ発った。

主犯の自供によると、石井は凶行に使った拳銃を持っており、
三年前に別れた女・さだ子(高峰秀子)に会いたがっていた。


さだ子は、かなり年の離れた佐賀の銀行員の後妻になっていた。
彼女の家には、まだ石井の立寄った形跡はなかった。

両刑事は、その家の真向いの宿屋の二階に泊まり、張込みを開始した。
猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられたが、石井は現れなかった。

一週間目。柚木が一人で見張っていた時、突然さだ子が裏口から外出した。
尾行してゆくと、山の中でさだ子は石井と密会していた。


さだ子は、このまま石井と駆け落ちしようと話している。
彼女は、石井が殺人犯として逃亡中であることを知らなかったのだ。

柚木は、さだ子に同情したが、職務を遂行して石井を逮捕した。

そして「早く帰ればご主人の帰宅までに間に合う」と言ってやるのだった。



1955年(昭和30年)小説新潮に掲載された松本清張の同名短編小説の映画化。

刑事二人が、犯人の元恋人の家に張り込み、ひたすら犯人が現れるのを待つ。
夏の暑い盛り、旅館の狭い部屋に閉じこもり、汗だくになって張込みを続ける。


「犯人は本当に現れるだろうか」酷暑の中で、刑事二人が、次第に肉体的、
精神的な焦燥感に追い込まれてゆく心理描写が秀逸である。


一週間後、張込みが限界に近づいた時、女が動いた。刑事二人は二手に分かれる。
若い刑事は、山の中で、女と犯人が話し合っているのを発見した。

うって変わった楽しげな女の表情に、刑事は戸惑い、そして同情してしまう。


本作は、刑事が犯罪者を追求するサスペンス劇の形式をとっているが、内容は
刑事の目から見た、追い詰められたしがない男女の愛の物語である。


若い刑事に扮した大木実は、照明スタッフから抜擢され、俳優に転身したという
珍しい経歴を持つが、正義感と刑事魂に燃える刑事を熱っぽく演じた。


またベテラン刑事に扮した宮口精二は、落ち着いた深みのある表情と、枯れた
老練な味わいのある演技を、しみじみと滲みだして見せた。




 
  製作 松竹

  監督  野村芳太郎   原作 松本清張

  配役 刑事・柚木隆男 大木実 横川仙太郎 清水将夫
  刑事・下岡雄次 宮口精二 横川さだ子 高峰秀子 
  下岡の妻・満子 菅井きん 石井(強盗殺人犯) 田村高広
      弓子(柚木の恋人)    高千穂ひづる       繁子(旅館の女主人)   浦辺粂子

直線上に配置