秀吉 1996年(平成8年) ドラマ傑作選
「このたわけ者!一体、いつまでかかっておるのだ!」
普請奉行の林佐渡守が、信長にひどく叱られている。
大雨で崩れた清州城の石垣を、二十日経っても まだ直せないでいるのだ。
「殿。私なら三日で直してみせまする。要するに、石垣を築けばよろしいのでござろう。」
すごすご佐度守が引き上げた後、藤吉郎が自信たっぷりに申し出る。
「ぬかしたな。よし、三日でやってみせるがよい。」
「はっ、では早速工事にかかりまする。」
(あのように言ったものの、はて、どうしようか…)
藤吉郎は、石工職人たちを十の組に分け、仕事も十等分した。
「さあ、頑張れよ!一番早かった組に、一人三両の報奨金を出すぞ!」
「ひええっ三両!三両なら小判が三枚だがや。こりゃあ負けちゃあおれんわ。」
職人たちが張りきったのなんの、競争で石を積み上げだす。わずか三日で仕上げてしまった。
(猿め、たいしたやつじゃわい。人の扱いを心得ておるわ。)信長は唸り声をもらした。
見事三日で石垣を完成させた藤吉郎だが、その裏には、妻のおねの内助の功があった。
三日で修復すると大言したものの、藤吉郎には工事を急がせるための資金などなかった。
では職人たちに支払った報奨金はどこから手当したのだろうか。
実はこのとき、二人は新婚だったが、藤吉郎の仕事にかける真剣さに打たれたおねは、
大事な祝言の祝い金を全額、夫のために提供し、さらに工事現場の炊き出しに
精を出したりするなど、内助の功を尽くしたのだった。
日本史上最大のサクセスストーリーといわれる豊臣秀吉の物語を、現代的視点で描く。
堺屋太一の小説を基に出世競争や派閥争いなど、サラリーマンの日常と重ね合わせる
ようにして、脚本の竹山洋が全体的に明るいタッチで表現している。
本作「秀吉」の視聴率は、第一話が26.6%と好調な滑り出しを見せ、平均視聴率30.5%、
最高視聴率37.4%と高視聴率を記録した。
秀吉その人の根強い人気に加えて、目玉をむいて若き日の秀吉をエネルギッシュに演じる
竹中直人の強烈なキャラクターに支えられているようだ。
また秀吉と石川五右衛門が幼なじみだったとする設定など、大胆な歴史解釈も話題になった。
(制作)NHK(原作)堺屋太一(脚本)竹山洋
(配役)秀吉(竹中直人)おね(沢口靖子)秀長(高嶋政伸)織田信長(渡哲也)本多正信(宍戸錠)
なか(市原悦子)お市(頼近美津子)茶々(松たか子)徳川家康(西村雅彦)千宗易(仲代達矢)
石川五右衛門(赤井英和)石田三成(真田広之)明智光秀(村上弘明)