いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう 2016年(平成28年) ドラマ傑作選
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曽田練(高良健吾)は、東京の運送会社で、引っ越しの仕事に就いていた。
ある日、練の悪友晴太(坂口健太郎)のカバンの中から古ぼけた手紙を見つける。
中身を読むと、死期の近い母親が娘に宛てたメッセージが記されている。
手紙の持ち主は、杉原音(有村架純)といい、北海道のある町に住んでいるらしい。
大切なものだと悟った練は、会社のトラックを飛ばして北海道へ向かう。
練はようやく、手紙の持ち主である杉原音を見つける。彼女はクリーニング店の店員だった。
杉原音は、母と幼い時に死に別れ、養父母と暮らしていた。
そして、貧窮する養父母のため、20歳も年上の資産家との結婚を強いられていたのだった。
二人はファミレスで、楽しい一時を過ごした後、練が音を自宅まで送り届ける。
だがその後、音は養父と口論の末、土砂降りの雨の中、家を飛び出してしまう。
そして、知り合ったばかりの練のトラックに飛び乗り、東京へ向かうのだった。
有村架純、高良健吾のダブル主演で、地方から上京して懸命に生きる若者たちの姿を描いた群像劇。
厳しい現実に翻弄されつつも、ささやかな幸せを求める主人公たちの姿が、視聴者の共感を呼んだ。
ヒロイン・杉原音は、養父に虐げられる日々から抜け出すべく、練のトラックに乗って上京する。
しかし、東京に着いた途端、二人は人ごみの中で離れ離れになってしまう。
杉原音はその後、町の介護施設で働く事になるが、人手不足のため長時間労働を強いられる。
介護従事者への社会的ニーズは高まる一方にもかかわらず、現実の待遇は決して良いとは言えない。
杉原音は連日、低賃金で過酷な労働を強いられ、まるで消耗品扱いだ。
一方、曽田練は、祖父が失った土地を取り返すことを夢見て、郷里の福島から上京していた。
彼は、運送会社で金を稼ごうとしていたが、やはり苦しい暮らしを強いられている。
練は心根の優しい男だが、優しさは現代社会においては一円の金にもならない。
力仕事も大金には結びつかず、知恵あるクールな人間ほど富を得られやすい。
ドラマでは、のちに練の恋敵となる介護施設の御曹司(西島隆弘)との貧富の差が、
残酷なまでに対比して描かれている。
脚本の坂元裕二は、かつて「東京ラブストーリー」で、トレンディドラマブームを巻き起こした。
だが本作は、バブル期の軽やかな恋愛を描いたトレンディドラマの設定を反転させたような
重苦しさが、ドラマ全体の基底的なトーンとなっている。
ままならない厳しい社会の現実に、若者たちが翻弄される姿が描かれ、心優しい若者たちが
こんなにも搾取されているのかと思うと、心が痛む思いがする。
本作は、介護の現実や若者の貧困など、現代社会の歪みや問題点を盛り込み、見る側に対して
「本当にこれで良いのか?」と暗に問い掛ける野心作である。
(制作)フジテレビ(脚本)坂元裕二
(配役)杉原音(有村架純)曽田練(高良健吾)日向木穂子(高畑充希)中條晴太(坂口健太郎)
井吹朝陽(西島隆弘)林田雅彦(柄本明)市村小夏(森川葵)仙道静恵(八千草薫)佐引穣次(高橋一生)
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明日への手紙(手嶌葵)