居酒屋兆治 1983年(昭和58年) 邦画名作選 |
函館の街外れ、藤野英治(高倉健)は、妻と二人で居酒屋「兆治」を営んでいる。
モツ焼きを肴に酒を飲ませる店で、彼は親しみを込めて兆治と呼ばれていた。
長年勤めた造船会社を辞め、脱サラで始めた店だが、そこそこ繁盛していた。
兆治には若い頃、さよ(大原麗子)という恋人がいた。しかし結ばれることはなかった。
さよは資産家の牧場主に嫁いだが、兆治への想いを断ち切ることはできなかった。
兆治も、心のどこかにさよの影を引きずっていた。そんなある日、さよが突如、店を訪れる。
兆治は、かつて造船所の人事部で働いていたのだが、人のクビを切らなくてはいけなくなった。
同僚をリストラするくらいなら、と潔く会社を辞職し、居酒屋をはじめたのだった。
兆治には、かつて恋人・さよがいた。
二人は深く愛し合っていたが、さよに縁談が持ち上がった。相手は裕福な牧場主だった。
貧しかった兆治は、さよの幸せを願って、黙って身を引いたのだった。
そんな不器用でストイックな男・兆治を、高倉健が生真面目に演じている。
恋愛とは摩訶不思議なもので、幸せになって欲しいから身を引く、それで良かったのだと
兆治は信じていたのだが、結局彼女の心の奥底まで傷つけてしまった。
その一方で、そんな兆治の不器用で純朴な魅力に惚れて集まって来る常連客もいる。
原作は、1979年(昭和54年)文芸雑誌「波」に連載された作家・山口瞳の小説「兆治」。
小説は東京・国立市が舞台だが、映画は古くから異国情緒を漂わせるエキゾチックな町、
函館に置き換えられた。
物語は、高倉健扮する兆治とかつての恋人だったさよとの悲恋と、彼が営む居酒屋「兆治」
の常連客たちの人間模様が並行して描かれる。
登場人物は、みな不器用だが、人の繋がりが深くて、ほろ苦く、昭和の価値ある映画である。
ラストに流れる高倉健の歌「時代おくれの酒場」も心にしみる。
製作 東宝
監督 降旗康男
配役 | 兆治(藤野伝吉) | 高倉健 | 河原 | 伊丹十三 | |||||||||
茂子(兆治の妻) | 加藤登紀子 | 堀江 | 池部良 | ||||||||||
神谷さよ | 大原麗子 | 松川 | 東野英治郎 | ||||||||||
岩下義治 | 田中邦衛 | 峰子 | ちあきなおみ |