灰燼   1929年(昭和4年)     邦画名作選
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西南戦争の時、名門上田家の三男・茂(中野英治)は、西郷軍に参加する。

西郷隆盛の率いる反政府の軍を、正義の革命軍と信じて加わったのだ。

だが西郷軍は負け戦となり、茂は敗残の身で、家に逃げ帰って来る。

しかし、兄の猛(小杉勇)は、茂をかくまえば、官警に追及されると恐れる。

そして家名を守るためには、茂が自害する他はないと、父と家族を説得する。

父も同調し、最後に頼る母までが涙ながらに茂の切腹を承諾する。

予期せぬ母の言葉を聞いた茂は、刀に手をのばし、腹を切って死ぬ。

茂の恋人のお菊(夏川静江)は、茂の墓の前で短刀で喉を突いて自害する。

茂の母親も発狂し、家の行燈を倒して火事になり、上田家は灰燼に帰してしまう。




1900年(明治33年)国民新聞(後の東京新聞)に連載された徳富蘆花の同名小説の映画化。

映画は、西南戦争に志願して敗れた一青年が、家族に拒絶される悲劇を描いたものであり、
監督・村田実の生涯の傑作の一つに数えられる作品である。


かつて武士の家柄であった名家には厳しい家訓があり、家名を汚すようなことがあれば、
勘当させられるか、場合によっては自害しなければならなかった。

本作は、不名誉なことがあれば、死んでお詫びするのが当然という、人命よりも名誉を
重視する封建的道徳を糾弾しているのだが、問題はそれだけではない。


そういった封建的な家族制度の問題に加え、一方で戦争を背景に物語が展開している。

小説が発表された明治33年は、日清戦争が終結し、日露戦争へと向う時期であった。

まさに日露激突の国威昂揚期に、戦争の陰の悲劇という銃後の不安を描くことによって
厭戦思想を醸成し、戦争を鋭く告発しているのだ。


そして今回、満州の支配をめぐり、日中間に戦雲急を告げる昭和4年に公開された本作は、
時宜を得た作品として高く評価されたのである。

 
 
 
 

  製作   日活

  監督   村田実  原作 徳富蘆花

  配役    父・上田久吾 三桝豊 三男・茂 中野英治
      母・お由 英百合子 お菊 夏川静江
      長男・覚 村田宏寿 お菊の母 伊藤スエ
      次男・猛    小杉勇            甚兵衛    横山運平 

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